スー・ウォード(Sue Ward)は、17世紀の
ウィリアム・リリーの方法にもとづく
ホラリー占星術を教え、実践している占星術家です。
オリヴィア・バークレイのホラリー講座で学んだ世代の一人で、1992年からリリーの「判断前の考慮事項(considerations before judgement)」を再検討する一連の論考を発表しました。とくに、リリーが実際に用いた
ボイド・オブ・コースの定義をめぐる指摘で知られています。
現在は自身の講座 The Traditional Horary Course を主宰し、リリーの伝記研究でも著作があります。
ウォード本人の話では、占星術を学び始めたのは1980年代初めで、ケイ・ウェイ(Kay Way)という人の8人ほどの教室に通ったのがきっかけで、すぐに引き込まれたといいます。この先生の蔵書のなかに、19世紀にザドキエルが改編した版の『Christian Astrology』があり、これがホラリーに関心を持つ入口になりました。
その後、英国の占星術学校 Faculty of Astrological Studies で学び、中級課程を修了しました。当時の同校は
マーガレット・ホーン流の近代占星術を教えていたといいます。並行して、始まって間もないバークレイのホラリー講座に申し込みました。バークレイが受講生に配っていたのは『Christian Astrology』のうちホラリーを扱う第2書のコピーだけで、基礎を説く第1書がないまま学ぶのはとても難しかったと振り返っています。1985年にファクシミリ版(レグルス版)が出て第1書から読めるようになったことを、ウォードは人生を変えた出来事として語っています。
ウォードの仕事の中心は、リリーが『Christian Astrology』で挙げた判断前の考慮事項の読み直しです。これは、質問の時点のチャートが判断に足るかどうか(ラディカルかどうか)を確かめるための注意書きで、上昇宮の度数が早すぎる・遅すぎる、月がボイド・オブ・コースである、といった項目が並びます。20世紀半ばまでに、これらは「ストリクチャー(strictures)」、つまり一つでも当てはまれば判断してはならない禁止事項として扱われるようになっていました。
1992年、モーリス・マッキャン(Maurice McCann)が、リリー自身が考慮事項に当てはまるチャートでも判断している例を指摘する論文を発表します。マッキャンは事例を数えて集計する方法をとりましたが、ウォードは1993年の反論「Lilly's Method: a Response to Maurice McCann」で、リリーの例題を一つずつ、その質問の文脈に沿って検討する必要があると論じました。ウォードの読みでは、考慮事項は判断を禁じるものではなく、状況を描写し判断を慎重にさせるものです。たとえば上昇宮の度数が早い場合は物事がまだ始まったばかりの段階、遅い場合は時機を過ぎた段階を示すと解釈します。
もっとも知られているのが、ボイド・オブ・コースの定義に関する指摘です。20世紀に広まった定義では、月がいまのサインを出るまでに主要なアスペクトをもう一つも完成させないとき、月はボイドとされます。これに対してウォードは、リリーの定義、すなわち天体がある天体から離れつつあり、そのサインにいるあいだに直ちにほかの天体へアプライしないときにボイドとする文言に立ち返りました。リリーの体系では
オーブは天体ごとに決まっており、
アプライとは両天体のオーブの半分(
モイエティ)の和の範囲内で近づいている状態を指します。したがって、チャートの時点で月がどの天体のオーブにも入っていなければ、のちに同じサインのなかでアスペクトを結ぶとしてもボイドになる、というのがウォードの読みです。番組の司会者
クリス・ブレナンは、当初は異論の多かったこの解釈が、近年は重要な発見と受け止められるようになったと述べています。
考慮事項に関する主な論考は、「The Void of Course Moon: An Important Discovery」(The Horary Practitioner 誌第15号、1992年)、「Lilly's Method: a Response to Maurice McCann」(Astrology Quarterly 誌、1993年春号)、「Consideration Before Judgment Revisited」(The Horary Practitioner 誌、1997年7月)です。
単行本では、ピーター・ストッキンガー(Peter Stockinger)との共著『William Lilly: The Last Magician, Astrologer and Adept』(Mandrake、2014年)があります。リリーの自筆本にもとづく自伝のウォードによる校訂注釈版、リリーと同時代の人々のホロスコープ、そしてリリーとジョン・ガドベリーの関係を一次資料から検証した論考などを収めています。
2021年には、自身の講座の教科書『Sue Ward's Traditional Horary Course』を刊行しました。リリーの教えと実践を、講義と例題チャートで350ページ以上にわたって解説するものです。2022年には、誘拐や殺人といった深刻な事件の質問16例にホラリーの方法を当てはめた『Horary Astrology, Abduction & Murder』を出しています。
ウォードはバークレイの QHP 講座で学んだのち、1、2年ほど同講座のチューターを務めました。その後独立し、本人の記憶では1980年代末から1990年代初めに、バークレイの講座に続く最初のホラリー講座を開いたといいます。以後、伝統的ホラリーの講座は次々と生まれました。ウォードの講座は長く通信講座の形で続き、2021年10月からはライブのオンライン授業になりました。エレクションやマンデンの短期講座も開いています。
ボイド・オブ・コースの定義をめぐる議論は、
月のボイドタイムを学ぶ際に、どの時代のどの定義を前提にしているかを確かめる必要があることを示しています。
ウォードの仕事は、リリーの原典を規則集としてではなく、例題とともに読む姿勢の実例です。まず
ホラリー占星術の技法ページと
『Christian Astrology』の解説で全体を押さえ、そのうえで The Astrology Podcast 第296回のインタビューを聞くと、考慮事項をめぐる論点と1980年代以降のホラリー復興の流れがつかめます。同じくバークレイに学んだ
ジョン・フローリーとの関係などは、
現代占星術家マップでも確かめられます。