ハワード・サスポータス(Howard Sasportas, 1948年4月12日 - 1992年5月12日)は、20世紀後半に活躍したアメリカ生まれの占星術家・教育者です。米コネチカット州ハートフォードに生まれ、人間性心理学を学んだのち、1973年にロンドンへ移り占星術研究の道に入りました。心理学と占星術を橋渡しする「心理占星術」の発展に大きく寄与した人物として知られ、温かく明快な語り口でホロスコープを人生の成長物語として読み解いたことで、英語圏の多くの学習者から慕われました。
サスポータスの名前を語るうえで欠かせないのが、
リズ・グリーンとの協働です。グリーンがユング心理学の分析家として理論的な深みをもたらした一方、サスポータスは人間性心理学の視点から「人が育っていくプロセス」という側面を担い、二人の組み合わせはCPA(心理占星術センター)の教育体系に厚みを与えました。44歳という若さで世を去りましたが、彼の著作は現在も心理占星術の基本文献として参照されています。
サスポータスが占星術家として活動した1970年代から1990年代初頭は、占星術の世界において大きな転換が起きた時期です。1960年代のカウンターカルチャーと人間性運動の潮流のなかで、「自己理解のための道具としての占星術」という発想が英語圏の市民に広く受け入れられるようになりました。
この時代の背景を押さえるうえで重要なのが、
デーン・ルディア(1895-1985)の思想的遺産です。ルディアは1936年の著書
「人格の占星術」においてホロスコープを「未来の予測装置」ではなく「人間性の全体的な理解のための地図」として位置づけ直しました。この考え方は1970年代にはすでに英語圏の占星術界に浸透しており、サスポータスが学びを深めた環境にはルディアの影響が色濃く漂っていました。
同じ時期、
スティーブン・アロヨが
「4元素の占星術」(1975年)で4元素と心理的気質の対応関係を論じるなど、心理学的な枠組みを占星術に持ち込む試みが活発になっていました。サスポータスはこうした知的潮流のなかで、人間性心理学の訓練を生かしながら独自の立場を打ち立てていきます。
1973年にロンドンへ渡ったのは、当時の英国占星術界が活発だったからでもあります。英国占星術連盟(FAS)が整備した教育体系を基盤に、多くの占星術家が活動しており、
マーガレット・ホーンらが確立した教育的占星術の土台の上で、新しい世代が心理学との融合を模索していました。サスポータスはこの環境に入り込み、やがてリズ・グリーンと出会うことで、心理占星術の制度的な拠点を作る方向へと動き始めます。
サスポータスの最大の功績は、占星術を「運命の宣告」ではなく「自己理解と成長のための地図」として捉え直した点にあります。彼は1983年、リズ・グリーンとともにロンドンで心理占星術センター(The Centre for Psychological Astrology, CPA)を設立し、ユング心理学などの深層心理学と人間性心理学の双方を取り込んだ占星術教育を体系化しました。
サスポータスの理論的な特徴の一つが、ホロスコープの12ハウスを「人が経験を積み自分を育てていく人生の舞台」として丁寧に読み解いた点です。従来の占星術では「どのハウスにどの惑星があれば、どのような出来事が起こる」という外的な対応関係を中心に解釈することが多かったのに対し、サスポータスは内面の成長や無意識の動きという観点からハウスを読み直しました。たとえば、伝統的に「不幸の部屋」とされがちな12ハウスを、隠れた自分や手放しのテーマを抱える領域として論じるなど、人の心に寄り添う視点が一貫しています。
CPAの教育においてサスポータスが担ったのは、ユング心理学の枠組みを提供したグリーンとは少し異なる役割です。人間性心理学の訓練を受けていたサスポータスは、クライアントや学習者との対話のなかで人が自分の体験をどのように意味づけるかという問いを重視しました。この「体験のプロセス」という視角が、彼の著作にもにじみ出ており、抽象的な理論よりも具体的な人生の場面に寄り添う語り口として表れています。温かく明快な文体は、占星術の学習者に広く親しまれた理由の一つです。
サスポータスの代表作は
「12のハウス」(The Twelve Houses: An Astrological Guide to Self-Understanding)(1985年)です。ホロスコープの各ハウスを心理占星術の視点からわかりやすく論じた一冊で、今日まで読み継がれる定番となっています。
タイトルが示すとおり、本書は占星術による自己理解の手引きとして書かれています。ハウスとは星が「人生のどの舞台」で働くかを示す区分ですが、サスポータスはその一つひとつを外側の出来事だけでなく、内面の成長や無意識の領域とも結びつけて解説しました。人間関係をあらわすハウスを「誰と出会うか」だけでなく「自分が他者の中に何を映し出すか」という観点から捉えるなど、ハウス解釈に心理的な奥行きを与えた点が際立っています。入門者にも理解しやすく、かつ実践的な深みをもって書かれており、はじめてハウスを学ぶ読者から解釈を深めたい実践者まで幅広く読まれてきました。
もう一つの重要な著作が『The Gods of Change』(1989年)です。天王星・海王星・冥王星という三つのトランスサタニアン惑星(土星より外側の惑星)のトランジット(通過)を、人生の危機と再生の局面として扱っています。この三天体はそれぞれの公転周期が長く、個人の人生において何年にもわたる変容のプロセスを示すことが多いとされます。サスポータスはこれらの天体が人生の節目においてどのような心理的テーマを浮上させるかを、豊富な事例とともに論じました。
リズ・グリーンとの共著によるCPAセミナーシリーズも、心理占星術を学ぶうえで重要な資料群として位置づけられています。これらは講義録の形式をとっており、CPAでの実際の教育のなかからどのような議論が生まれたかを知る手がかりになっています。
サスポータスが活動した時代の心理占星術は、複数の中心人物が互いに刺激しあいながら形成されていました。リズ・グリーンとの共同作業はその最たる例ですが、
ロバート・ハンドをはじめとする同時代の占星術家たちとも、英語圏の占星術界で同じ時代を歩む関係にありました。
CPA設立後、センターはロンドンを拠点として数多くの受講生を輩出しました。サスポータスの温かみのある指導スタイルは、CPAの教室で直接薫陶を受けた占星術家たちに引き継がれ、彼らを通じて心理占星術の実践が各国に広がっていきました。CPAは現在も活動を続けており、サスポータスが果たした教育機関としての整備の意義は小さくありません。
1992年に44歳で亡くなったことは、占星術界にとって早すぎる喪失でした。しかし彼の著作は現在も入手可能とされ、参照され続けています。特に「12のハウス」は、心理占星術の文脈でハウスを学ぼうとする人にとっての入口として、現在も書店や教育の場で取り上げられています。後継の世代の占星術家が彼の著作を引用し、あるいはその考え方を発展させるかたちで、サスポータスの視点は現代の心理占星術の教育に組み込まれています。
スティーブン・フォレストや
ジェフリー・ウルフ・グリーンをはじめとする、心理的・進化論的な占星術を扱う占星術家たちの活動が1980年代以降に活発になった背景には、CPAを含む心理占星術の教育拠点の整備がありました。サスポータスが果たした役割は、理論の提示にとどまらず、心理占星術を「学べる場」として制度化したことにも及んでいます。
近代から心理派にいたる系譜の全体像については、
近代・心理派占星術の系譜もあわせてご覧ください。
現代の占星術において、ホロスコープを「外の出来事を予言するもの」ではなく「内面の構造を理解するための地図」として読む視点は、多くの実践者の間で広く共有されています。この見方が当たり前になった背景には、ルディアが開いた道をグリーンやアロヨが具体化し、サスポータスがそれを教育として体系化した蓄積があります。
サスポータスの固有の貢献は、ハウスという占星術の基礎的な概念を心理的な成長のプロセスと結びつけた点にあります。ハウスは本来、「どのライフエリアで惑星が働くか」を示すための座標系です。これを「人がどのような舞台で自己を体験し、何を学んでいくか」という問いとして読み替えることで、出生チャートの解釈に実践的な深みが生まれます。この読み方は、占星術のコンサルテーション(相談)においてクライアントの自己理解を支援する文脈でも有効であり、現代のカウンセリング的な占星術実践の基盤の一つになっています。
また、若くして世を去ったにもかかわらず著作が読み継がれているという事実は、サスポータスの書いたものがもつ実用的な有効性を示しています。理論の抽象度と具体的な解説のバランスが良く、学習者が実際のチャートを読む際の道案内として機能しやすいというのが、長く参照され続ける理由の一つと考えられます。
「占星術・ハウスシステム比較」のページも参照すると、ハウスそのものについての理解が深まります。
ハワード・サスポータスを知る意義は、占星術を「運命の宣告」ではなく「自己理解と成長のための地図」として捉え直し、ハウスを人生の成長の舞台として描いた人物の仕事に触れられる点にあります。彼の温かい読み方は、占星術を心理的な成熟のプロセスと結びつけ、学習者が自分のチャートを通じて人生の体験を見つめ直す手がかりを提供しています。
学びの入口として最もすすめやすいのが、代表作
「12のハウス」です。英語の原書ですが、各ハウスを一つずつ丁寧に論じた構成なので、自分のチャートで惑星が入っているハウスを探し、そのハウスの章を読むという形で活用できます。占星術の学習が初期段階にある人でも、外国語の壁を除けば内容の難易度は比較的とっつきやすく書かれています。
CPAの出版物やセミナー録音は、グリーンとの共著を含めてサスポータスの考え方の幅を知るうえで参考になります。また、サスポータスが担った心理占星術の系譜全体を知りたい場合は、
近代・心理派占星術の系譜のページで前後の文脈を確認するとさらに理解が深まります。
彼の仕事の核心は、自分の出生チャートのハウスに惑星がどう配置されているかを知ることから始まります。自分のチャートを手元に用意することが、サスポータスの読み方を実感する最短の道です。
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