クリストファー・ワーノック(Christopher Warnock)は、伝統的な占星術と、ルネサンス期の占星術的な魔術(占星魔術)を実践・研究する占星術家・著述家・翻訳者です。本人の経歴によれば、1998年から伝統的占星術家・ルネサンス占星魔術の実践者として活動しています。専門は
ホラリー、
エレクショナル、占星魔術、そして天体の力を受け取る時刻を選んで制作する占星術的なタリスマン(護符)です。
学歴は、スコットランドのセント・アンドルーズ大学でルネサンス・近世史を学んで M.A.(Hons.)の学位を得て(1986年)、1989年にミシガン大学で専門職学位を得たと記されています。2000年に開設したウェブサイト「Renaissance Astrology」は600ページを超える記事を収め、講座やタリスマンの頒布の窓口になっています。サイトでは、依頼者のために4,000件を超えるホラリーの判断を行ってきたと紹介されています。
ワーノックの名を広く知らせたのは、中世の占星魔術の書『ピカトリクス(Picatrix)』の英訳です。ジョン・マイケル・グリアとともにラテン語版を訳し、全4巻をそろえた英語版を刊行しました。
ワーノックが活動を始めた1990年代末は、英語圏で古典占星術を学び直す動きが進んでいた時期です。本人の経歴によれば、ホラリーは
J・リー・レーマンに学び、彼女の講座「Classical Studies in Horary」を修了しました。魔術の哲学は、中世占星術の復興で知られる
ロバート・ゾラーに学んだと記しています。ホラリーという実践の技法と、中世・ルネサンスの思想の両方を、復興の担い手から直接学んだことになります。
2014年に「The Astrology Podcast」に出演した回では、占星術と魔術・オカルトの関係、魔術の定義、占星術がなぜ働くのかについての見方(しるしとしての占星術、原因としての占星術、そして魔術的な第三の見方)、近代と伝統の占星術の違い、占星術の共同体とオカルトの共同体の関係のなさなどが話題になっています。ワーノックは、この二つの分野をつなぐ位置で仕事をしてきた人物です。
ワーノックの第一の功績は、占星魔術の古典文献を英語で読める形にしたことです。早い仕事として、サービト・イブン・クッラに帰される『De Imaginibus(像について)』を訳しています。
デボラ・ホールディングは2005年10月の書評で、これを14世紀のラテン語写本からの初の英訳と紹介しました。
2009年には、グリアと共訳した『Secrets of Planetary Ritual』で、『ピカトリクス』に収められたハッラーンのサービア教徒による七惑星への祈祷文を英訳しました。この訳は、デイヴィッド・ピングリーによるラテン語の校訂版にもとづいています。2011年には、全4巻を1冊に収めた『The Complete Picatrix』(Liber Atratus Edition)を刊行しています。
実践の面では、
『オカルト哲学』の著者コルネリウス・アグリッパ、マルシリオ・フィチーノ、『ピカトリクス』を典拠に、天体の配置がよい時刻を選んでタリスマンを制作する方法を整えてきました。本人のサイトによれば、2011年に作られた水星と金星の方陣(テーブル)のタリスマン2点が大英博物館の常設コレクションに収められ、博物館の目録は、その制作時刻のホロスコープを立てた人物としてワーノックの名を挙げているとされます。
講座では、占星魔術・ホラリー・ネイタル・エレクショナルの各コースのほか、惑星の魔術、
月の宿(28宿)、
デーカンとフェイス、ジオマンシーなどの短期講座を開いています。
翻訳では、先に挙げた『De Imaginibus』、『Secrets of Planetary Ritual』(2009年)、『The Complete Picatrix』(2011年)が中心です。自身の著作としては、七惑星の魔術を扱う入門書『Secrets of Planetary Magic』(2010年)、月の28宿を扱う『Mansions of the Moon』(2010年)、ホラリーの実例集『Warnock's Horary Case Book』(第2版、2009年)、恒星・サイン・星座の魔術を扱う『Fixed Star, Sign and Constellation Magic』(2019年)があります。
2022年の『The Celestial Way: The Spiritual Path of the Stars and Planets』は、占星魔術を霊的な修行の道として用いるための基礎と準備的な実践を示した本です。毎日の惑星の実践や、守護天使(個人のダイモン)との関わり方を扱い、最後に『ピカトリクス』の「完全なる自然(Perfect Nature)」の実践を取り上げています。本人の経歴には、スーフィズムや禅の修行に参加してきたことも記されています。2026年9月には、占星魔術の理論と実践を総合した『Telesmanica: Advanced Theory and Practice of Astrological Magic』を、米国の占星術大会 UAC 2026 にあわせて発表しました。
日本語では、『Secrets of Planetary Magic』が
芳垣宗久氏の訳で『占星魔術入門』(太玄社、2025年)として刊行されています。七惑星の魔術を扱い、惑星の神々を描いたタリスマンの図像と、魔術に適した時刻を計算する占星術の規則を収めた本です。
ワーノックは、伝統的占星術の側から占星魔術を復興させた人物として紹介されることが多く、UAC 2026 の講演紹介では「伝統的な占星魔術の復興の父」と呼ばれています。『ピカトリクス』の英訳については、2020年の「The Astrology Podcast」でも、現代の早い時期の翻訳の一つとして取り上げられました。その後、ダン・アトレルとデイヴィッド・ポレッカによる学術的なラテン語版の新訳も出ており、英語圏では複数の訳を比べて読めるようになっています。
日本との関わりも続いています。本人の経歴によれば、2010年2月に日本で開かれた「ピカトリクス」をテーマとするワークショップで主講師を務め、2013年から2016年にかけて東京と大阪でワークショップや講演を行いました。2025年の『占星魔術入門』の刊行で、その入門書が日本語でも読めるようになりました。
ワーノックの仕事の意義は、
ルネサンス期の占星術が、出来事の予測だけでなく、時刻を選んで天体の働きを受け取ろうとする実践と結びついていたことを、原典の翻訳と現在の実践の両方で示した点にあります。占星魔術はエレクショナルの技法を土台にしているため、古典占星術の時刻選定の考え方を理解する手がかりにもなります。
ワーノックを知ると、古典占星術の復興が、ホラリーや出生図の技法だけでなく、中世・ルネサンスの魔術思想の再評価とも並行して進んできたことがわかります。日本語で入るなら『占星魔術入門』が最初の一冊になります。原典に関心があれば、英訳の『The Complete Picatrix』や、アグリッパの『オカルト哲学』の記事へ進むとよいでしょう。師にあたるレーマンやゾラーとの関係は、
現代占星術家マップで確かめられます。
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