J・リー・レーマン(J. Lee Lehman, 1953年9月9日 - 2026年3月18日)は、アメリカの占星術家・教育者・著述家です。米ネブラスカ州ウェイクフィールドに生まれ、ラトガース大学で植物学の博士号(Ph.D.)を取得しました。博士号取得後はニューヨーク市の公衆衛生研究所(Public Health Research Institute)でウイルスのタンパク質合成を扱う博士研究員を務めており、自然科学の研究者としての訓練を受けたうえで占星術の道に進んだ人物です。
占星術家としての仕事は、出生図(ネイタル)・
ホラリー・
エレクショナル・
医療占星術・
マンデンの各分野にわたります。とくに、品位(ディグニティ)や支配星の体系といった古典占星術の基礎概念を、現代の学習者が使える参考書の形に整理した著作で知られています。教育者としては、ケプラー・カレッジ(Kepler College)の創設時の教授を務め、アカデミック・ディーンや学務担当副学長(Vice President for Academic Affairs)を務めました。
受賞歴として、1995年のマーク・エドモンド・ジョーンズ賞、2008年のレグルス賞(教育部門)が著者紹介に記されています。2026年3月18日に死去しました。占星術サイト Skyscript は、1999年8月に収録されていた彼女へのインタビューを、死去の直後の同月に初めて公開しています。
レーマンが占星術を学び始めたのは大学院生の時期でした。1999年のインタビューで本人が語るところでは、当時関わっていた政治活動の委員会のほぼ全員の出生図を手に入れ、最初の9か月ほどは入門書を読んでチャートを見比べながら、会合での人々を観察していたといいます。占星術との最初の接点は、ルウェリン・ジョージの『A to Z Horoscope Maker and Delineator』を持っていた知人だったと述べています。
同じインタビューによれば、レーマンは当初ユング派の心理学的なアプローチから占星術に入り、品位(エッセンシャル・ディグニティ)について調べるなかで古典占星術の資料に出会って、そちらへ軸足を移しました。この移行は、20世紀後半の英語圏で、17世紀の
ウィリアム・リリーらの古典的な技法をあらためて学び直す動きが広がっていった時期と重なります。レーマンはこの流れのなかで、英国の
オリヴィア・バークレイのもとでホラリーを学びました。本人はインタビューで、バークレイとは考え方に違いがあったとしつつ、その視覚的な記憶力の確かさに触れています。
また、
デボラ・ホールディングが主宰する STA(School of Traditional Astrology)では、自身が設計した医療占星術の講座を担当しました。古典占星術の復興が、英米の複数の学校と教師のつながりのなかで進んだことがわかります。
レーマンの最大の功績は、古典占星術の判断の土台になる品位と支配星(ルーラーシップ)の体系を、出典ごとに整理した参考書として提供したことです。1989年の『Essential Dignities』は品位を、1992年の『The Book of Rulerships』は事物と天体・サイン・ハウスの対応を扱っています。後者の第2版について、出版元のシファー社は、典拠を10点から18人の著者による23点以上の文献に広げ、2万項目を超える対応を収め、各項目に出典を示す構成になると案内しています(2026年11月刊行予定)。どの文献がそう述べているかを読者が確かめられる形にした点が特徴です。
ホラリーについては、技法を段階的な訓練によって身につけるものとして扱いました。1999年のインタビューでレーマンは、かつて合気道の稽古をした経験に触れながら、占星術をうまく教えることは武道を教えることだと語っています。2002年の『The Martial Art of Horary Astrology』という書名は、この考え方と重なります。
実践上の立場について、レーマンは同インタビューで、ホラリーとエレクショナルでは古典的な技法だけを使う一方、ネイタルではプロフェクション、トランジット、ルネーション(新月・満月)などを組み合わせていると述べています。心理占星術の側と古典占星術の側が互いにもっと関わり合うことを望み、双方の非難の応酬を残念がっていました。運命か自由意志かという議論は誤った二者択一だとも語っています。小惑星については、楽しく有用な面があるとしながら、出生図の本来の読みを小惑星で置き換えてしまう使い方には批判的でした。
初期の著作は、70を超える小惑星を扱った1988年の『The Ultimate Asteroid Book』、1989年の『Essential Dignities』、1992年の『The Book of Rulerships』、1996年の『Classical Astrology for Modern Living』(副題 From Ptolemy to Psychology & Back Again)、2002年の『The Martial Art of Horary Astrology』です。『Classical Astrology for Modern Living』の副題は「プトレマイオスから心理学へ、そしてまた戻る」という意味で、出版元の紹介では、古典の技法を取り戻すことと、それを現代の文脈で評価することの二つを課題に掲げた本とされています。
2010年代には、シファー社から分野別の著作が続きました。2011年の『Astrology of Sustainability』は、21世紀の環境問題を占星術家がどう捉えるかを主題に、外惑星の周期を評価する方法と、2065年までの海王星と冥王星の周期を論じたマンデンの書です。同年の『Traditional Medical Astrology』は、医療占星術の論理と伝統的な方法を段階的に学ぶための手引きで、医療占星術は歴史的に医学を補うものであって、それだけで完結した体系ではなかったという立場をとっています。2012年の『Classical Solar Returns』は
ソーラーリターンを240の例で論じ、2015年の『The Magic of Electional Astrology』は事業の開始や結婚などの時期選定を、歴史と113を超える実例で解説しています。このほか、パピュスの『Astrology for Initiates』をフランス語から英訳しています。
レーマンの影響は、著作と並んで教育の場を通じて広がりました。ケプラー・カレッジでは創設時の教授を務め、STA では医療占星術の講座を受け持ちました。彼女が開いたホラリーの講座「Classical Studies in Horary」からは、のちに占星術的な魔術の研究と実践で知られる
クリストファー・ワーノックが修了者として出ており、ワーノック本人が経歴のなかでホラリーの師としてレーマンの名を挙げています。
2016年には、ポッドキャスト番組「The Astrology Podcast」に出演し、ガレノス医学の四体液と気質、第1ハウスと第6ハウスからの体質の読み方、手術の日取りを選ぶエレクショナル、病気の経過を読むクリティカル・デー(危機日)の理論、現代の実践における倫理と法律上の問題などを語っています。古典の医療占星術を、現代の医療と社会のもとでどう扱うかという問題意識が示された回です。
レーマンの仕事の意義は、古典占星術の体系を「どの文献が何を述べているか」という形で参照できるようにした点にあります。品位や支配星の表は、現代の入門書では結論だけが示されることが多いものですが、レーマンの参考書は出典の違いを並べて示します。古典の技法を学び直す実践者にとって、自分が使っている対応がどの伝統に由来するのかを確かめる手がかりになります。
もう一つは、科学の研究者としての訓練を受けた立場から、占星術を規律ある技芸として教える方法を示したことです。占星術を始めた当初から、出生図の解釈と実際の人物を照らし合わせることを続けたという本人の回想は、その姿勢をよく表しています。古典と心理学の両方を経験したうえで、分野ごとに使う技法を選び分けるという立場も、流派の対立とは違う道筋の一つとして参照できます。
レーマンを知る意義は、古典占星術の復興が、翻訳者だけでなく、品位や支配星の参考書を整え、学校で教える教育者によって支えられてきたことを理解できる点にあります。
品位や支配星を学ぶときに、手元の表がどの文献に由来するのかを意識するきっかけにもなります。
学び方としては、まず関心のある分野の一冊から入るのが近道です。ホラリーなら『The Martial Art of Horary Astrology』、品位の基礎なら『Essential Dignities』、医療占星術なら『Traditional Medical Astrology』が対応します。古典の考え方と現代の読み方の関係を知りたい人には『Classical Astrology for Modern Living』が向いています。師であるバークレイ、同じ時代に古典の技法を広めたホールディング、そしてレーマンに学んだワーノックの記事をあわせて読むと、人のつながりが見えてきます。
現代占星術家マップでも、こうした関係を一覧できます。
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