ジョセフ・クレイン(Joseph Crane)は、アメリカの占星術家・教師・著述家です。
ヘレニズム占星術と中世の伝統的な技法を現代の占星術家に紹介する著作を書く一方、カウンセリング心理学の訓練を生かして、占星術家のための相談技能の教育にも力を入れてきました。ロードアイランド州南部に住み、南ニューイングランドで「アストロロジー・インスティテュート(Astrology Institute)」を主宰しています。
出版元 ARHAT の著者紹介によると、クレインは1980年代の終わりから占星術家・教師・書き手として活動し、1990年代初めから
ホラリーを含む伝統的な占星術を実践して、教育と相談の仕事に取り入れてきました。1994年には NCGR(National Council for Geocosmic Research)の認定を受けています。学歴は、ブランダイス大学で哲学の学士号、カウンセリング心理学の修士号を取得し、ゲシュタルト療法と実存的心理療法の訓練も受けました。占星術以外では、ニューロフィードバックの臨床家・セラピストとして子どもや大人の注意や心理の問題に取り組み、依存症からの回復の途上にある人たちのカウンセラー・占星術家としても働いてきたと紹介されています。
クレインが伝統的な占星術の実践を始めた1990年代初めは、英語圏で古代・中世の占星術文献の翻訳と再評価が本格的に動き出した時期にあたります。第一作『A Practical Guide to Traditional Astrology』は、1997年に
ロバート・ハンドが主宰する ARHAT から刊行されました。本人によれば、この本は1990年代に雑誌 The Mountain Astrologer に連載した記事を広げたものです。
一方でクレインの経歴は、伝統派だけに収まるものではありません。本人のサイトの紹介では、その占星術の応用は伝統的なものと近代的なもの、状況に応じたもの、心理的なもの、スピリチュアルなものに及び、必要に応じてホラリーやエレクショナルも用いると説明されています。The Wessex Astrologer の書籍ページに載った書評は、そうした幅広い背景を持ちながら、クレインが伝統的な占星術を好んで用いる立場を選んだと紹介しています。
クレインの第一の功績は、古代と中世の技法を、前近代の占星術を知らない現代の占星術家にも使える形で紹介したことです。『A Practical Guide to Traditional Astrology』は、ヘレニズム後期と中世の考え方とホロスコープの技法を、予備知識なしで学べるように書かれています。天体とサイン、
セクトと品位、アスペクト、オリエンタリティ(太陽に対する東西の位置)などを順に扱い、古代・中世の占星術を概観することで、近代の見方の特徴も見えるようにする構成です。
続く『Astrological Roots: The Hellenistic Legacy』では、
プトレマイオス、
ウェッティウス・ウァレンス、ドロテウス、マニリウスなどのヘレニズム期の資料から、出生図の読み方と時期の読み方を一つの体系に整理しました。Skyscript の書評によると、第1章から第11章が出生図、第12章から第14章がトランジットや
プロフェクションなどの時期の技法を扱い、ハウスには四分円系ではなく
ホールサインを用いています。ハウスを「場所(places)」、サインを「ゾーディア(zoidia)」と呼ぶなど、古代の用語をそのまま使う点も特徴です。著者の紹介では、名声・職業・愛・幸福といった主題をチャートから評価する方法を含み、40人を超える歴史上と現代の人物のチャートに古代の方法を当てはめています。
研究の幅は技法書にとどまりません。『Between Fortune and Providence』では、ダンテ『神曲』の宇宙論を、詩の道徳的・霊的・劇的な文脈の中で読み解きました。『神曲』では占星術師が卜者や魔術師とともに地獄に置かれていますが、作品全体は占星術に満ちていると著者は説明します。地獄篇第20歌を詳しく取り上げ、占星術の実践と、卜占(ディヴィネーション)・魔術・預言との関係も論じています。
『A Practical Guide to Traditional Astrology』(ARHAT、1997年)は、伝統的な技法への短い入門書です。著者のサイトの書籍一覧では1998年と表記されています。
『Astrological Roots: The Hellenistic Legacy』(The Wessex Astrologer、2007年)は、ヘレニズム期の出生図と時期の技法を体系的に示した本です。
『Between Fortune and Providence: Astrology and the Universe in Dante's Divine Comedy』(The Wessex Astrologer、2012年)は、『神曲』の占星術的な宇宙論の注解です。
『Astrology and the Lives of People: Finding Compassion, Character and Heroism in the Horoscope』(The Wessex Astrologer、2023年)は、太陽・月と肉眼で見える五つの惑星が人間の本性と人生の関心事の全体を表すという立場から、それらの意味を取り戻し、練り直そうとする本です。太陽と月の英雄性、知恵、友情、愛といった主題と、それを出生図の中に見つける方法を論じています。本人は、パンデミックのさなかに書いたこの本を、自分の著作の中でもっとも自信と誇りを持てる仕事だと述べています。
このほか、技法、古代の占星術の理解と実践、占星術と文学の関係について多くの記事を書き、Skyscript などに書評も寄せています。2009年には
ロバート・シュミットの『Definitions and Foundations』の書評を書きました。
教育者としてのクレインの拠点が、1991年に始まったアストロロジー・インスティテュートです。本人のサイトによると、これまでに100人を超える修了者に占星術の技能の認定を与え、占星術家のための2年間の相談技能の訓練課程も設けてきました。『Astrological Roots』を扱った Skyscript の書評は、当時この組織をジル=ローリー・クレインとドリアン・ギーゼラー・グリーンバウムとともに運営していたと紹介しています。
この教育から育った一人が、のちにヘレニズム占星術の研究者となる
ドリアン・ギーゼラー・グリーンバウムです。グリーンバウムは Skyscript のインタビューで、地元の講座でクレインに出会い、クレインとジル=ローリー・クレインのもとで2年間学んでディプロマを取得し、のちに同所で教えたと語っています。クレインはまた、ケプラー・カレッジで神話、古代の占星術、哲学の講座を教えてきました。こうした師弟の関係は
現代占星術家マップでたどれます。
クレインを知る意義は、伝統的な技法の研究と、目の前の人と向き合う相談の技能を、一人の実践家の中で両立させている点にあります。本人のサイトは、占星術家として人の人生に関わると、変化の途中にいる人が助言を求める相手になるのに、占星術の教育は技法の伝達に偏りがちだと述べ、相談の技能を個別に学ぶ課程を案内しています。
著作はいずれも英語です。伝統的な技法を初めて学ぶなら『A Practical Guide to Traditional Astrology』、ヘレニズム期の体系をまとまって知りたいなら『Astrological Roots』が入口になります。文学や思想から占星術に関心がある人には、ダンテ論の『Between Fortune and Providence』が独自の読み物になるでしょう。あわせて、本事典のヘレニズム占星術やホールサインの項目を読んでおくと、クレインが何を現代に持ち帰ろうとしているのかがつかみやすくなります。