マルク・エドモンド・ジョーンズ(Marc Edmund Jones、1888年〜1980年)は、20世紀アメリカを代表する占星術家・著述家です。1888年10月にミズーリ州セントルイスに生まれ、1980年3月に91歳で世を去りました。彼が広く知られるのは、黄道12星座の全360度それぞれに一つずつ意味の絵姿を与えた「サビアン・シンボル(Sabian Symbols)」を体系化したことと、出生図の天体配置を7つの型に分類する「ジョーンズ・パターン」を提唱したことです。
たとえば、ある度数を「○○のイメージ」という象徴的な情景で読み解くサビアン・シンボルは、度数ごとに細やかな解釈を与える手法として今も多くの占星術家に用いられています。米国占星術界の重鎮として「アメリカ占星術界の長老(Dean of American Astrologers)」と敬意を込めて呼ばれた人物です。
ジョーンズは占星術家であると同時に哲学者・著述家でもあり、占星術と哲学・心理学とが融合しはじめた時代に、ホロスコープを象徴と全体構造から読む独自の視点を提示し続けました。その仕事は20世紀アメリカ占星術の土台の一角を形成し、サビアン・シンボルという名で今日も広く参照されています。
ジョーンズが活躍した20世紀前半は、西洋占星術が大きく形を変えつつあった時代でした。19世紀末にヘレナ・ブラヴァツキーらが設立した神智学協会の影響を受け、星の解釈を「迷信」ではなく「宇宙の法則」として再定義しようとする知的潮流が欧米の占星術界に広がっていました。この流れのなかでイギリスでは
アラン・レオが「人格の道具としての占星術」を提唱し、アメリカでは
エヴァンジェリン・アダムズが占星術を社会的に可視化させていきました。
同時代のアメリカでは、占星術を単なる予測術から哲学・心理学と結びつけた知的営みへと深めようとする動きが生まれていました。ジョーンズはその流れに位置する人物の一人です。哲学への関心を持ちつつ、象徴の言語で星の読み方に新しい奥行きを与えることを一貫して探求しました。
また、20世紀前半のアメリカは占星術の教育や研究が組織的に行われるようになった時代でもあります。ジョーンズ自身も、後述するサビアン・アセンブリ(Sabian Assembly)という研究・教育団体を創設し、自らの方法論を継承する場を積極的に作りました。このような組織的な取り組みは、師から弟子への個人的な口伝に頼っていたそれ以前の占星術の伝達形式とは異なる、近代的な広がりをもたらしました。
ジョーンズが思想を形成した時代は、ちょうど
デーン・ルディアが「人間性占星術(ヒューメニスティック占星術)」を提唱し始めた時代とも重なります。両者はともにアメリカの近代占星術の基盤を作った人物として、同じ時代の問題意識を共有していました。
ジョーンズの第一の功績は、サビアン・シンボルの確立です。1925年のある一日、霊能者エルシー・ホイーラー(Elsie Wheeler)との協働によって口述された映像をジョーンズが黄道の各度数へ割り当て、360のシンボルとして整理しました。生み出された場所はカリフォルニア州サンディエゴのバルボア・パークと伝えられています。各度数に象徴的な絵姿・心理的な意味・キーワード・吉凶の傾向を与えるこの体系は、出生図をより細かい解像度で読むための独自の枠組みとなりました。
第二の功績は、ホロスコープ全体の天体配置をゲシュタルト(全体像)として捉える「7つのパターン」の提案です。10天体が円のどこに分布しているかを「バンドル型」「ロコモーティブ型」などの型に分類し、図全体の基本的な構えを一目でつかむ視点を示しました。これは個々の配置の前に図の全体性から読み始めるという、解釈の順序そのものに新しさをもたらしました。
サビアン・シンボルは、霊的な口述の素材をジョーンズが長い年月をかけて練り上げ、心理的な解釈を加えた体系です。象徴の言語で度数に意味を与えるというアプローチは、それまでの占星術に新しい詩的・直観的な次元を開きました。7つのパターン論は、チャートを一つの有機的な全体として把握しようとする発想であり、細部の吉凶判断に偏りがちだったそれ以前の読み方に構造的な視点を加えるものでした。
これら二つの貢献は、いずれも「部分から全体へ」あるいは「事象から象徴へ」という方向性を持っており、ジョーンズが占星術をより深い表現力を持つ知的営みとして捉えていたことを示しています。
代表作の一つ『The Guide to Horoscope Interpretation(ホロスコープ解釈の手引き)』は、出生図に見いだされる7つのパターンの解釈を説いた書で、ジョーンズ・パターンの理論を世に広めました。
もう一つの代表作
『占星術におけるサビアン・シンボル』(The Sabian Symbols in Astrology、1953年)は、全360度の象徴とその解釈を網羅した、サビアン・シンボルの基礎文献です。各度数に対して、その象徴を描く一文、現代的・心理的な解釈、ひと目で要点をつかむためのキーワードなどが付されており、360枚の小さな絵を束ねた「度数の事典」とも呼べる構成になっています。なお本書では多数の著名人のホロスコープを例示しており、象徴の解釈が具体的な事例とともに論じられています。
サビアン・シンボルそのものは1925年に生まれましたが、ジョーンズはその素材を長い年月をかけて練り上げ、心理的な解釈を加えて1953年に一冊の体系へとまとめあげました。天体が在する度数のシンボルを手がかりに、その配置が帯びるニュアンスを言葉で捉え直すという読み方を可能にした点に、本書の独創があります。
ジョーンズはこのほかにも占星術分析の要点を扱う実践書を著しており、その多くが後世も参照されています。彼が創設したサビアン・アセンブリ(Sabian Assembly)という研究団体を通じても、著作と方法論は継承されました。
ジョーンズの同時代において、思想的な親近性が際立つ人物として名前が挙がるのは
デーン・ルディアです。ルディアはジョーンズのサビアン・シンボルに深い関心を持ち、独自の解釈を加えた著作を刊行しました。ルディアは
「人格の占星術」(1936年)で「占星術を予測術から人間理解の道具へ」という転換を提唱した人物であり、象徴の体系に深い意味を見いだすという点でジョーンズと共鳴する部分がありました。
後世への影響という観点では、ジョーンズのサビアン・シンボルは刊行後に多くの占星術家によって参照・解釈され直されてきました。
「占星術におけるサビアン・シンボル」は、度数解釈という一分野を確立した基礎文献として位置づけられ、現代のさまざまな占星術家がそれぞれの解釈書を著すなかでも、その出発点としてジョーンズの本書がしばしば参照されています。一つの象徴体系が後続の多くの著作を生み出した、その源として記憶されている書物です。
7つのパターン論についても同様で、出生図の全体的な天体分布から読み始めるというアプローチは、チャート解釈の実践において広く受け入れられ、現代の占星術書にも引き継がれています。
ジョーンズが創設したサビアン・アセンブリは、彼の思想を継承するための組織として機能し、サビアン・シンボルの研究が後世に受け渡される場となりました。個人の著作だけでなく、教育・研究の仕組みを整えたことが、ジョーンズの影響力を世代を超えて持続させた要因の一つです。
現代の占星術実践においてジョーンズの遺産が最も鮮明に生きているのは、度数解釈の分野です。サビアン・シンボルは今日でも、出生図のなかの天体やアセンダントなどが位置する度数を、より細やかに読むための手法として広く用いられています。各度数に与えられた象徴的なイメージは、数値や角度としての度数に「言葉の手がかり」を与えるものであり、占星術の解釈に詩的・直観的な次元を加えています。
近代から心理派にいたる占星術の系譜という大きな流れのなかで位置づけると、ジョーンズはアラン・レオらの近代占星術の問題意識を引き継ぎながら、象徴体系という独自の道具を作り上げた人物として理解できます。彼の仕事は、占星術が「外から与えられる予言」から「象徴を通じた内なる探求」へと変容していく過程に貢献したものでした。
チャートの天体分布を7つのパターンで把握するという視点もまた、現代の占星術教育のなかに根を下ろしています。個別の天体や配置の解釈に先立って、チャート全体の構造的な特徴をつかむという順序は、ホロスコープを有機的な全体として読む姿勢の実践的な表現です。
ジョーンズの仕事が今も参照され続ける理由は、彼が提示した象徴と構造という二つの視点が、占星術の解釈に普遍的な問いを投げかけているからでしょう。「この度数はどのような意象を帯びるか」「このチャート全体はどのような構えを持つか」という問いは、どの時代の占星術実践においても有効であり続けます。
マルク・エドモンド・ジョーンズを知る意義は、ホロスコープの細かな度数にまでイメージの言葉を与え、また図全体の形から読み始める視点を示した人物がいたと分かる点にあります。彼の二つの工夫は、占星術がいかに豊かな表現を持つかを教えてくれます。
ジョーンズの仕事を学ぶ入口として最も直接的なのは、代表作
『占星術におけるサビアン・シンボル』です。自分の太陽や月、アセンダントが位置する度数のシンボルを探してみることが、サビアン・シンボルを体感する最初のステップになります。その度数に与えられた情景の言葉が、自分の経験や感覚と重なる部分を探すという使い方から始めるのが自然な入り方です。
7つのパターン論については、まず自分の出生図の天体が円のどのエリアに集まっているかを眺めてみることが有効です。全天体が狭いエリアに集中しているか、広く散らばっているか、あるいは特定の方向に偏りがあるかという観察が、パターン論の出発点になります。
ジョーンズの占星術観は、占星術を人間理解の言語として使おうとする姿勢に貫かれています。それを知ると、自己理解の解像度を上げる手がかりが見えてきます。占星術は運命を断定するものではなく、自分を細やかに見つめ直すための地図として、取り入れる価値があります。
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