コック・フォン・シュトゥックラートとは
コック・フォン・シュトゥックラート(Kocku von Stuckrad)は、ヨーロッパの宗教史と西洋エソテリシズム(秘教思想)を研究するドイツの宗教学者です。1966年4月6日、ガーナのクパンド(Kpando)で生まれました。2009年からオランダのフローニンゲン大学で宗教学の教授を務めています。
占星術家ではなく、占星術を宗教・哲学・科学の歴史のなかに位置づけて記述する研究者です。古代から現代までの占星術の通史『Geschichte der Astrologie』(2003年)は、スペイン語・ポルトガル語・イタリア語にも翻訳されました。本人は自身の関心を、20世紀から21世紀に目立つようになった霊性の思想や実践、たとえば大地にもとづく霊性や占星術の長い歴史に向けていると説明しており、それらがヨーロッパ近代についての通説的な物語に再考を迫るものだと論じています。
コック・フォン・シュトゥックラートが生きた時代
学歴と職歴は本人の公式サイトに詳しく載っています。1995年にボン大学とケルン大学で宗教学・哲学・ユダヤ学の修士号を取り、1999年にブレーメン大学で宗教学の博士号、2002年に同大学で大学教授資格(ハビリタツィオン)を得ました。2002〜2003年にはバイロイト大学で現代宗教講座の客員教授を務めています。
2003〜2009年はアムステルダム大学の「ヘルメス哲学と関連思潮の歴史センター」で専任の助教授(Universitair Docent)を務めました。2009年にフローニンゲン大学の宗教学教授となり、比較宗教史学科の学科長(2010〜2013年)、神学・宗教学部の学部長(2013〜2017年)を歴任し、2023年9月からは同大学の宗教・文化・社会大学院の院長を務めています。2011年にはデンマークのオーフス大学から宗教学の Honorary Professor の称号も受けています。
学会活動では、ヨーロッパ西洋エソテリシズム研究学会(ESSWE)の創設理事を務め、国際宗教・自然・文化学会(ISSRNC)とオランダ宗教学会(NGG)の会長も務めました。
功績と理論
シュトゥックラートの占星術研究は、古代のユダヤ教とキリスト教が占星術とどう向き合ったかという問いから始まっています。最初の著書『Frömmigkeit und Wissenschaft』(1996年)は、ヘブライ語聖書(タナハ)、クムラン文書、初期ラビ文献に見られる占星術を扱いました。続く大著『Das Ringen um die Astrologie』(2000年、900ページを超える)は、古代末期のユダヤ教とキリスト教が占星術の言説をどのように取り込んだかを、クムラン、ユダヤの歴史記述、ラビの議論、キリスト教の正典、グノーシス主義、マニ教の占星術、キリスト教主流派の反占星術論といった領域にわたって検討しています。
2003年の『Geschichte der Astrologie』は、メソポタミアでの星の学問の成立と古代エジプトでの意義から、古代・中世・ルネサンスにおける惑星と星の知識の洗練、さまざまな哲学体系や宗教のなかでの占星術の役割、そして占星術の正当性が問われるようになった近代以降の再編までを一冊で描いています。書評では、占星術を意味と秩序をもたらす記号の体系として捉える構築主義的な立場が特徴として挙げられました。一方で、扱う範囲がヨーロッパに限られることを指摘する書評もあります。
2012年にミュンスター大学で行った講演では、バビロニア・ギリシア・ローマで天文学と占星術が数学や経験的研究と同等に扱われていたこと、8世紀から12世紀ごろのイスラム世界で占星術が栄えたこと、ルネサンス期のヨーロッパで星にもとづく年次予測が広く出回ったことを示し、17世紀まで占星術・錬金術・魔術は学問の一部であって境界は流動的だったと論じました。2020年のポッドキャストでは、占星術を経験的な研究と解釈学的な層をあわせもつ「ハイブリッドな学問」として語り、科学と魔術、天文学と占星術といった二分法を問い直す必要を述べています。
西洋エソテリシズム研究では、特定の運動や団体ではなく、完全な知や「より高次の知」を手にしたという主張に注目し、秘密性をこの分野の特徴とみなしました。こうした主張がどのように語られ、受け継がれてきたかを分析する言説分析の方法を提唱したことでも知られます。
代表的な著作
占星術史の著作は、『Frömmigkeit und Wissenschaft: Astrologie in Tanach, Qumran und frührabbinischer Literatur』(Peter Lang、1996年)、『Das Ringen um die Astrologie: Jüdische und christliche Beiträge zum antiken Zeitverständnis』(Walter de Gruyter、2000年、叢書 Religionsgeschichtliche Versuche und Vorarbeiten 第49巻)、『Geschichte der Astrologie: Von den Anfängen bis zur Gegenwart』(C. H. Beck、2003年、改訂版2007年)です。ギュンター・エストマン、ダレル・ラトキンとの共編で論集『Horoscopes and Public Spheres: Essays on the History of Astrology』(Walter de Gruyter、2005年)も出しています。
エソテリシズム研究では、『Was ist Esoterik? Kleine Geschichte des geheimen Wissens』(C. H. Beck、2004年)が英訳『Western Esotericism: A Brief History of Secret Knowledge』(Equinox、2005年)としても読まれています。ほかに『Locations of Knowledge in Medieval and Early Modern Europe』(Brill、2010年)、『The Scientification of Religion: An Historical Study of Discursive Change, 1800-2000』(De Gruyter、2014年)、20世紀の「魂」の文化史を描いた『Die Seele im 20. Jahrhundert』(Wilhelm Fink、2019年。英語改訂版『A Cultural History of the Soul』Columbia University Press、2022年)があります。『The Brill Dictionary of Religion』(2006年)の編者も務めました。
現代占星術における意義
シュトゥックラートの仕事は、占星術を「当たるか当たらないか」で評価するのではなく、各時代の宗教・哲学・科学のなかで占星術がどのような役割を担ってきたかを描くものです。
バビロニアの占星術から
ヘレニズム期、
イスラム世界、
ルネサンス、
近代西洋へと続く流れを、一人の宗教史家が通して書いた点に、この通史の特色があります。
英語圏で占星術史を研究する
ニコラス・キャンピオンや
パトリック・カリーと並べると、ドイツ語圏の宗教学から占星術史を扱った研究者としての位置がわかります。研究者どうしの関係は
現代占星術家マップでも確かめられます。
コック・フォン・シュトゥックラートを知る意義・学び方
占星術の技法そのものを学ぶための著者ではありませんが、自分が使っている技法や考え方がどの時代のどんな文脈で生まれたのかを知りたいときに役立ちます。ドイツ語が読めるなら『Geschichte der Astrologie』で全体の流れをつかみ、古代のユダヤ教・キリスト教と占星術の関係に関心があれば『Das Ringen um die Astrologie』へ進むのが順当です。英語では、エソテリシズムの通史『Western Esotericism』や論集『Horoscopes and Public Spheres』が入口になります。占星術の系譜の全体像は
現代占星術の系譜もあわせてご覧ください。