マイケル・ベイジェント(Michael Baigent)は、ニュージーランド出身で英国を拠点に活動した著述家です。1948年2月27日にニュージーランドのネルソンで、マイケル・バリー・ミーハンとして生まれ、のちに母方の祖父の姓ベイジェントを名乗りました。2013年6月、イングランドのブライトンで脳出血のため65歳で亡くなっています(亡くなった日は資料により6月17日と18日の両方が見られます)。
ネルソン・カレッジを経てカンタベリー大学(クライストチャーチ)に学び、1972年に卒業しました。2000年にはケント大学で、神秘主義と宗教体験の研究により修士号を得ています。写真家として働いた時期を経て、著述の道に入りました。
一般には、リチャード・リー、ヘンリー・リンカーンとの共著『The Holy Blood and the Holy Grail』(1982年)の著者として知られ、その後もリーとの共著で宗教史やフリーメイソンに関する本を多く書きました。フリーメイソンの会員でもあり、雑誌『Freemasonry Today』の編集長を務めています。占星術の分野では、国家や集団を扱う
マンデン占星術の共著と、古代メソポタミアの占星術についての単著を残しました。本事典では、この占星術の仕事を中心に紹介します。
ベイジェントの占星術の仕事の一つ目は、1984年に
ニコラス・キャンピオン、
チャールズ・ハーヴェイと共著した『Mundane Astrology: An Introduction to the Astrology of Nations and Groups』(Aquarian Press)です。政治・経済・国際情勢の分析に占星術を用いる方法を論じた本で、国家や集団を対象とする占星術を、周期の考え方や集合的無意識、大衆心理といった概念と結びつけて扱っています。増補した第2版も出ています。同じ時期、英国占星術協会の機関誌『The Astrological Journal』の1983〜84年冬号に、ハーヴェイらとともに寄稿者として名を連ねています。
二つ目は、1994年にArkana(ペンギン・ブックスの叢書)から出した単著『From the Omens of Babylon: Astrology and Ancient Mesopotamia』です。アッシリア王アッシュルバニパルのニネヴェの図書館から出土した粘土板の翻訳などをもとに、現代の占星術の根がバビロニアの前兆の学にあることをたどった本です。2015年の第2版の内容紹介によれば、ベイジェントはこの本で、バビロニアとアッシリアの占星術が個人ではなく王と国家にかかわるものだったことを示し、天体をめぐるメソポタミアの神話が宗教・魔術・政治とどう結びついていたかを論じています。さらに、その知識がエジプトを経て、ルネサンス期のフィレンツェにまで影響を及ぼした道筋にも触れています。
占星術に関する著作は、共著『Mundane Astrology』(1984年)と単著『From the Omens of Babylon』(1994年)の2冊です。後者は2015年に、題を『Astrology in Ancient Mesopotamia: The Science of Omens and the Knowledge of the Heavens』と改めてInner Traditions/Bear & Companyから第2版が出ました。
この第2版は、
倉本和朋氏の訳で『古代メソポタミア占星術:前兆の科学と天空の知識』(太玄社、2021年)として日本語で読めます。第1部「発見」では、アマチュアの考古学者たちの発掘、古代の遺物をめぐる争い、二つの川の地、ニネヴェの王立図書館が順に扱われ、粘土板の発見の経緯から話が始まります。
占星術以外の著作には、リー、リンカーンとの共著『The Holy Blood and the Holy Grail』(1982年)と『The Messianic Legacy』(1986年)、リーとの共著『The Temple and the Lodge』(1989年)、『The Dead Sea Scrolls Deception』(1991年)、『The Inquisition』(1999年)、単著『The Jesus Papers』(2006年)などがあります。
『Mundane Astrology』は、キャンピオン、ハーヴェイとの共同作業から生まれた本です。キャンピオンはのちに英国占星術協会の会長(1994〜1999年)を務め、大学で占星術史の研究と教育を率いています。
『From the Omens of Babylon』は、題を改めた2015年の第2版を経て、2021年に倉本氏の訳で日本語版が刊行されました。初版から四半世紀以上を経て、英語と日本語の両方で読める形が整ったことになります。
ベイジェントを知る意義は、占星術がもともと個人の性格や運勢ではなく、王と国家のための天空の観察から始まったという視点を得られることにあります。現代の個人向けの占星術に慣れていると見落としがちなこの出発点は、
バビロニアの占星術や、国家と社会を読むマンデン占星術を学ぶうえでの土台になります。
日本語で読むなら『古代メソポタミア占星術』から入るのが近道です。そのうえで、キャンピオンの通史や
ルネサンス期の占星術の解説とあわせて読むと、メソポタミアの前兆の学から後世の占星術へと続く流れが見えてきます。共著者との関係は
現代占星術家マップでも確かめられます。