マギー・ハイド(Maggie Hyde)は、ユング心理学と占星術の関係を論じた『Jung and Astrology』(1992年)で知られる英国の占星術家・著述家です。ロンドンの占星術教育団体カンパニー・オブ・アストロロジャーズ(Company of Astrologers)の共同設立者で、
ジェフリー・コーネリアス(2024年没)とともに同会のディレクターを務めてきました。鑑定を行うコンサルタント占星術家であり、講師、ジャーナリストとしても活動してきました。
著者紹介によれば、アルスター大学で英文学を学び、その後ロンドンの成人教育の現場で、代替医療、占星術、仏教、易経など、いわゆるニューエイジ系の講座を企画する仕事に携わりました。のちにケント大学で神秘主義と宗教体験の修士号を取得し、同大学の学部・大学院の課程で宇宙論とタロットを教えました。
ハイド自身の回想によれば、占星術は本と友人を頼りに独学で始め、1976年ごろにホラリー占星術家の
デレク・アップルビーと出会いました。アップルビーの導きで、学び始めてまもなく
ホラリー占星術のチャートに取り組むようになったといいます。1970年代の英国でホラリーが復興したのは、アップルビーの実践と、それを早くから後押ししたコーネリアスの二人によるところが大きいと、ハイドは書いています。
1983年、ロンドン占星術ロッジと神智学協会の占星術ロッジの後援のもとで、アップルビー、コーネリアス、ハイド、ゴードン・ワトソンの4人がカンパニー・オブ・アストロロジャーズを設立しました。ハイドの回想では、同会の部屋はロンドンのブルームズベリー地区、クイーン・スクエアにありました。同会は占星術を洞察と自己認識の方法として広めることを目的とし、教育を二つの柱で組み立てています。一つは占星術の象徴と天文・技法の枠組みを学ぶもので、もう一つは占星術の解釈をディヴィネーション(卜占)と捉える独自の立場から、哲学と心理学の観点を取り入れて学ぶものです。ハイドはアップルビーとともに、モスクワで開かれた占星術家の会議に講師として招かれたこともあります。
ハイドの鑑定の仕事は、精神分析の思想への関心につながりました。著者紹介によれば、とくにフィラデルフィア協会(Philadelphia Association)の実存的な心理学から影響を受け、1999年に同協会の準会員になっています。ユングへの関心は、1992年に出た2冊の本、『Jung and Astrology』と、入門書『Jung for Beginners』にまとまりました。後者は10か国語で刊行されたと紹介されています。
『Jung and Astrology』は、ユングの理論のうち占星術に取り入れられた部分、見過ごされた部分、誤解された部分を見直し、心理占星術の限界をめぐる議論を開いた本です。中心にあるのはシンクロニシティ(共時性)の問題で、ハイドは、占星術家がユングのこの概念を大いに借りてきたにもかかわらず、それが占星術にとって何を意味するかはほとんど検討されてこなかったと指摘しました。
ハイドによれば、ユングの著作にはシンクロニシティの二つの考え方が混在しています。ひとつは、客観的な出来事どうしが意味のあるかたちで結びつくという考え方で、ユングが科学的な説明をめざすときに追った方向です。もうひとつは、観察する人の心がその出来事に関与しているという考え方で、この場合、共時的な出来事は予測できない一回限りのものになります。ハイドは、ユングが占星術の結婚の指標を調べた実験が、結果として、ホロスコープを選んだ人の心理状態を映し出すものになったと読み、後者の方向を示すものだと論じました。そのうえで、科学とディヴィネーションのあいだで揺れるユングの立場は最後まで解決されておらず、占星術もまた同じ主観と客観の境目に立っていると論じています。
占星術が外の世界と同じくらい占星術家自身を映し出しているというこの見方は、カンパニー・オブ・アストロロジャーズが掲げるディヴィネーションとしての占星術や、コーネリアスの『The Moment of Astrology』(1994年)の議論と重なります。
心理占星術とユングの関係を考えるときの、ひとつの論点を示した本です。
実践の面では、メディアでの占星術の執筆でも知られています。著者紹介によれば、雑誌『Cosmopolitan』、『The Media Guardian』、『Sunday Observer』のビジネス欄で占星術を担当し、ビジネスと不動産の占星術を得意としてきました。
主著は『Jung and Astrology』(Aquarian Press、1992年)です。日本語訳『ユングと占星術』は、
鏡リュウジ氏の訳で1999年に青土社から刊行されました。訳書には鏡氏による用語解説がついています。
同じ1992年に出た『Jung for Beginners』は、のちに『Introducing Jung』の題でも刊行されているユングの入門書で、出版社の書誌では、アーティスト・デザイナーのマイケル・マクギネスが共著者として名を連ねています。
コーネリアスとの共著には、入門書『Astrology for Beginners』(Icon Books、1995年)があります。2026年には、挿絵を新しくした改訂版『The Astrologer's Universe』がウェセックス・アストロロジャー社から刊行されました。
また、アップルビーの『Horary Astrology』の新版が出た際には、同僚として彼の人柄と仕事を紹介する文章を書いています。
『Jung and Astrology』は、日本では鏡リュウジ氏の翻訳を通じて紹介されました。鏡氏は、コーネリアスとハイドとの深い関係を語っています。
英国では、1983年から続くカンパニー・オブ・アストロロジャーズでの教育が、ハイドの仕事の大きな部分を占めています。コーネリアスの友人の占星術家カーク・リトルは、コーネリアスとハイドがともに鑑定の実践者でもあったと語っています。ユング心理学を取り入れた
心理占星術や、
ユングの影響を受けた占星術家たちの流れとあわせて読むと、ハイドの問いの位置がわかりやすくなります。
ハイドを知る意義は、心理占星術でよく使われる「シンクロニシティ」という言葉を、ユング自身の文章にさかのぼって確かめる視点が得られることです。まず『ユングと占星術』を読み、続けてコーネリアスの『The Moment of Astrology』に進むと、二人が共有するディヴィネーションとしての占星術の考え方がつかみやすくなります。関係する人物は
現代占星術家マップでも確かめられます。