エレクショナル占星術は、これから始める事柄のために、まだ訪れていない日時のなかから開始の瞬間を選ぶ技法です。出生図を読むネイタルや、いまの空を出生図に重ねるトランジットが「すでに起きていることを読む」立場なのに対し、こちらは「これから起こすことの入り口を整える」立場に立ちます。定義と成り立ちは用語ページの
エレクショナル占星術に、技法全体の見取り図は
エレクション占星術のコラムにまとめてありますので、ここでは実際に日時を選ぶ手順に絞ります。この技法が答えるのは、開業や契約、式や引っ越しなど、自分の裁量で日時を動かせる出来事を、どの空模様のもとに置くかという問いです。逆にいえば、相手の都合や制度で日が決まっている事柄には使えません。選ぶ余地のある範囲がどこまでかを最初に確かめるところから始まります。
見るべき点はいくつもありますが、判断には順序があります。最初に決めるのは、その事柄がどのハウスの領域に属するかです。結婚なら第7ハウス、商売や社会的な立ち上げなら第10ハウスというように目的に対応する部屋を定め、その部屋を支配する天体(
ルーラー)が良い状態に置かれる時刻を探します。次に重んじられるのが月です。古典の伝統では月が地上の物事の運びをあらわすとされ、月がこれから結ぶアスペクトが吉星(
吉星と凶星)へ向かっているか、
ボイドタイムに入っていないか、満ちていく時期か欠けていく時期か(
月の満ち欠け)を確かめます。三つ目はアセンダントとその支配星です。これは始める事柄そのものの土台にあたるため、支配星が力を得るサインに置かれ、厳しい角度を受けていない配置を選びます。最後に、凶星とされる天体が
アングルにあたるハウスに居座らないよう時刻をずらします。強弱の見方は単純で、条件を数多く満たす時刻ほど良いと考えるのではなく、その事柄にとって外せない条件から順に守れているかどうかで見ていきます。守れない条件が出てきたら、目的に照らして重みを比べ、どれから手放すかを決めます。
実際の手順は、粗いふるいから細かいふるいへ進みます。まず、いつからいつまでに始めたいのかという期間を決めます。期間が数日しかなければ選べる余地は小さく、数か月あれば条件を重ねられます。次にその期間の暦を見て、月の状態で候補日をふるいにかけます。ボイドタイムに重なる時間帯を外し、月がこれから結ぶアスペクトの向かう先を確かめ、目的に合う月相の日を残します。ここまでで候補はふつう数日に減ります。一日も残らないときは、期間の取り方そのものを広げ直します。続いて残った日のなかで時刻を動かし、アセンダントのサインとその支配星、そして目的のハウスの支配星が良い位置に来る時間帯を探します。アセンダントは時刻とともに動くため、ここが時刻を詰める作業の中心になります。最後に、選んだ時刻の図を自分の出生図に重ね、その配置が出生図の天体やアングルとどう噛み合うかを確かめます。条件表のうえでどれだけ整っていても、出生図と噛み合わない時刻は選ばないのが伝統的な作法です。
無料のホロスコープ作成で自分の出生図を手元に置いておくと、この照合がしやすくなります。
古典の側では、ドロテウスの『
カルメン・アストロロジクム』第5巻が主題別の選定を扱った早い例として知られ、リリーの『
クリスチャン・アストロロジー』にも選定の規則がまとめられています。20世紀の英語圏ではロブソンの『Electional Astrology』(1937)が参照されてきました。これらに共通する前提は、すべての条件を同時に満たす完璧な時刻は存在しない、という認識です。だからこそ優先順位をつけ、妥協点を探すこと自体が技法の中身になります。もう一つ古くから言われてきた注意として、エレクションは出生図の枠を超えないという考え方があります。選んだ時刻がどれほど整っていても、その人の出生図にない可能性を新たに作り出すものではない、とされます。現代の実践では、月相とボイドの回避だけを見る簡略な使い方と、支配星やディグニティまで詰める古典寄りの使い方とで、求める精度がかなり違います。曜日と時間帯の割り当てから入る
プラネタリーアワーは、その簡略な側に位置づけられ、併用されることがあります。
日常でこの技法が働くのは、日時に幅がある場面です。申し込みを送る日、面談の希望日、開店の日取り、引っ越しの搬入日。どれも数日から数週間の幅があり、その幅のなかで選ぶだけなら特別な準備は要りません。月がボイドでない時間を選ぶ、欠けていく月の時期に立ち上げを重ねない、という二つを守るだけでも実践として成立します。ホラリーと並べて月の扱いを整理した
月とホラリー・エレクショナルのコラムも手がかりになります。ただし、良い時刻を選んだことが結果を保証するわけではありません。日時を選ぶという行為には、始める前に段取りと意図をもう一度点検させる働きもあります。星の条件を確かめる時間が、そのまま準備を整える時間になる。その距離感で使うのが現実的です。