アスペクトは、二つの天体が黄道上でつくる角度から意味を読む技法です。ところが実際のチャートで、きっかり120度や90度に天体が並ぶことは、ほとんどありません。そこで、どこまでのずれなら角度が働いていると見なすか、という許容の幅をあらかじめ決めておきます。この幅が
オーブです。
やっかいなのは、この幅に流派を超えた共通の基準がないことです。同じ「合」であっても、1度以内でなければ認めない立場から、15度近くまで取る立場まで存在します。同じチャートを前にしているのに、成立していると数えられるアスペクトの本数が倍近く変わることも起こります。
なぜ一つに決まらないのでしょうか。オーブは望遠鏡で測れる物理量ではなく、「どこまでを結びついていると見なすか」という約束ごとだからです。約束ごとである以上、何を根拠に線を引くかによって答えが変わります。
根拠の置き方は、大きく三つに分かれます。天体の側にそれぞれ固有の幅があると考える立場、アスペクトの種類ごとに幅を決める立場、そして度数の幅よりも先にサインどうしの関係を土台に置く立場です。この三つが、古典・現代心理・ヘレニズムのオーブ観におおよそ対応します。
なお、度数までぴたりと一致した状態を
パータイル、幅を持ってゆるく成立している状態を
プラティックと呼びます。この対概念そのものは流派を問わず使われますが、「幅」の中身をどう定めるかが、以下で見ていく分かれ道になります。
古典占星術では、オーブはアスペクトではなく天体に属すると考えます。天体はそれぞれ光の輪をまとっており、その輪の大きさは天体によって違う。二つの輪が触れ合えば角度が成立する、という発想です。この輪の半径にあたるものが
モアティ(半オーブ)です。
ウィリアム・リリーは『
Christian Astrology』(1647年刊)の第1巻で、天体ごとのオーブを表にまとめています。そこに挙げられているのは、土星9度、木星9度、火星7度、太陽15度、金星7度、水星7度、月12度です。これらの数値はリリーの表に記されたものとして扱ってください。古典の文献のなかでも著者によって値には出入りがあり、リリーの表がそのまま古典全体の標準というわけではありません。
判定の手順はこうです。まず二天体それぞれのオーブを半分にしてモアティを出し、その二つを足した角度を許容幅とします。たとえば太陽と土星なら、7度30分と4度30分を足して12度。月と火星なら、6度と3度30分を足して9度30分。この幅の内側に角距離が収まっていれば、アスペクトが成立していると読みます。
この方式の特徴は、組み合わせによって許容幅が変わる点にあります。太陽がからむアスペクトは自然に広くなり、水星と金星の組み合わせは狭くなる。天体ごとに影響の及ぶ範囲が違うという古典の世界観が、そのまま計算式になっているわけです。アスペクトの種類が合であるか三分であるかで幅を変えないところが、現代の方式ともっとも異なる点だといえます。
ヘレニズム期の占星術は、度数の幅を詰める前に、まずサインどうしの関係を見ます。クリス・ブレナンは『
Hellenistic Astrology』で、古代の文献ではサイン単位で「見る・見ない」の関係が決まり、度数の接近はその上に重ねる補助的な情報として扱われた、と解説しています。
この枠組みでは、牡羊座にある天体と獅子座にある天体は、度数が20度離れていてもトラインの関係にあります。逆に、隣り合うサインに入っている二天体は、度数が2度しか離れていなくても「互いに見ない」関係として、アスペクトを結ばないと読まれます。つまり、オーブという発想そのものが前面に出てきません。
そのうえで、度数が接近した配置はより強く働くと見られました。ブレナンの解説では、おおむね3度以内にまで近づいたものを、完成に近い、あるいは効力が濃いものとして扱う記述が紹介されています。サイン単位の枠組みと、度数単位の濃淡。ヘレニズム期にはこの二層が併存していたことになります。
この構造を知っておくと、古典系の文献で「アスペクトがある」と書かれているとき、それがサインの話なのか度数の話なのかを区別して読めるようになります。現代の感覚でオーブ表だけを持ち込むと、古代の議論を取り違えてしまうことがあります。
20世紀に広まった心理占星術の方式では、オーブは天体ではなくアスペクトに属します。合には合の幅、トラインにはトラインの幅というように、角度の種類ごとに許容幅を決めるわけです。天体が何であっても、同じ角度なら同じ幅を当てます。
具体的な数値は書き手によって差がありますが、傾向はおおむね共有されています。メジャーアスペクト(合・オポジション・トライン・スクエア・セクスタイル)には概ね6度から10度ほど、マイナーアスペクトには概ね1度から3度ほど。マイナーは働きが繊細とされるため、きっかりに近くなければ読みに入れない、という扱いが一般的です。
スー・トンプキンス『
Aspects in Astrology』やチャールズ・カーター『
The Astrological Aspects』は、いずれもアスペクトの解釈を主題とした書物ですが、オーブについては固定の数値を絶対視せず、実践を重ねながら自分の基準を定めていくもの、という距離感で述べています。特定の占星術家が「この度数が正しい」と宣言しているわけではない、という点は押さえておきたいところです。
ひとつ、古典の名残が残っている慣習があります。太陽と月がからむアスペクトには、ほかの天体より広めのオーブを取るという扱いです。光の強い天体は影響の及ぶ範囲も広い、という古典の発想が、アスペクト別方式のなかに部分的に生き延びているかたちです。
なお、この方式は設定が単純で、読む天体が増えても手順を変えずに済みます。現代の占星術ソフトの多くがアスペクト別のオーブ設定を採用しているのは、そうした扱いやすさによるところが大きいでしょう。
オーブを大きく絞り込む立場もあります。ラインホルト・エバーティンが体系化した
コズミオバイオロジーは、その代表です。この体系では、二天体のちょうど中点である
ミッドポイントに第三の天体やアングルが重なる配置を中心に読み、円を90度に圧縮したダイヤル図の上で合・スクエア・オポジションを一望します。
90度に畳んだ図では、もとの360度で数度の差が、そのまま図上の距離として現れます。ゆるいオーブを許すと、ダイヤル上のほとんどの点が何かに触れてしまい、意味のある配置を絞り込めません。そのためエバーティン派の実践では、概ね1度から2度以内という精密なオーブが用いられます。エバーティンの『The Combination of Stellar Influences』は、そうした狭い幅で拾い上げた中点の意味を一覧にした書物です。
ジョン・アディの
ハーモニクスは、別の道筋から同じ方向に向かいます。ハーモニクスは360度の円をある数で割り、そこに浮かぶリズムを読む技法です。5で割れば72度、7で割れば約51度、9で割れば40度というように、割る数が増えるほど角度どうしの間隔は詰まっていきます。
間隔が詰まれば、当然オーブも狭くしなければ隣の角度と区別がつきません。分割数が増えるほど許容幅を比例して絞る、というのがハーモニクスの原理的な帰結です。アディは『Harmonics in Astrology』(1976年刊)でこの考え方を整理し、通常のアスペクトも円の分割の一部として統一的にとらえ直しました。オーブを狭く取る立場は、感覚的な厳格さというより、扱う角度の細かさから要請されている面が大きいわけです。
オーブの内側に入っている配置は、さらに二つに分かれます。二天体がこれから正確な角度に向かって近づいていく
アプライングと、正確な角度を過ぎて離れていく
セパレーティングです。古典では、アプライングをこれから起こることに、セパレーティングをすでに過ぎたことに結びつけて読む扱いが広く見られました。
この区別は、オーブ幅の設定と直結します。幅を広く取るほど、まだ遠いアプライングの配置まで読みに入ることになり、幅を狭く取れば、正確な角度の近傍だけを見ることになります。同じ「7度離れた合」が、ある流派では有効なアスペクト、別の流派では無関係な二天体になるわけです。
影響はチャート全体の見え方にも及びます。オーブを広く取れば成立するアスペクトの本数が増え、グランドトラインやTスクエアといった図形が姿を現しやすくなります。狭く取れば本数は減り、残った少数の配置がそのチャートの骨格として際立ちます。前者は関係の網を広く見る読み、後者は焦点を絞る読みだといえます。
どちらが正しいかを決める外部の基準はありません。ただし、自分がいまどの幅で見ているかを自覚しないまま複数の書籍を読み比べると、記述の食い違いを解釈の違いだと誤解してしまいます。書籍やソフトのオーブ設定を最初に確認する習慣は、それだけで混乱をかなり減らしてくれます。
学びはじめの段階では、アスペクト別に一律の幅を決める現代方式が扱いやすいでしょう。設定が単純で、多くの入門書やソフトの初期値と揃うため、記述の照合がしやすいからです。まずはメジャーアスペクトを主軸に読み、マイナーは狭い幅で補助的に添える、という順序が無難です。
古典やヘレニズムの技法を学ぶ場合は、その文献が前提としている方式に合わせるのが基本です。リリーの技法を追うならモアティを足す手順で判定し、ヘレニズムの技法を追うならサイン単位の関係を先に確認する。現代のオーブ表をそのまま持ち込むと、原典の議論と噛み合わなくなります。
ミッドポイントやハーモニクスを扱う場合は、狭いオーブが前提です。ここで幅をゆるめると、意味のある配置とそうでない配置の区別がつかなくなり、技法そのものが機能しません。逆にいえば、狭いオーブに耐えられる出生時刻の精度が必要になる、ということでもあります。
流派を横断して学ぶ人に現実的なのは、幅を一つに固定するのではなく、目的に応じて切り替える構えです。全体の構造を眺めるときは広めに、優先順位をつけるときは狭めに。そのうえで、正確な角度に近い配置ほど濃く働くという考え方を軸に据えておけば、どの流派の記述にも接続できます。
なお、当サイトの無料ホロスコープ計算が採用しているオーブは、コラム「
オーブとは」に一覧で記しています。まずは実際のチャートで、どのアスペクトがどれくらいの幅で成立しているかを確かめてみてください。
無料のホロスコープ計算でアスペクトとオーブを確認する