ボイドタイムとは
月は、ホロスコープに登場する天体のなかで、いちばん速く動きます。およそ2日半で一つのサインを通り抜け、約27〜28日で12サインをひとめぐりします。この足の速さが、これからお話しする「ボイドタイム」のカギになります。
月があるサインの終わりに近づくと、次のサインへ移るまでのあいだに、ほかの天体ともう主要なアスペクト(角度)を一つも結ばない、という時間帯が生まれることがあります。これを「ボイド・オブ・コース」、日本語では「無効航行」と呼びます。月のボイドタイム、と縮めて呼ばれることも多い時間です。
たとえば、ある日の月が天秤座の終わりのほうにいて、蠍座へ移るまでのあいだに、太陽とも火星とも木星とも、どの天体とも新しいアスペクトを作らずに進んでいくとします。このあいだが、その日のボイドタイムにあたります。航海にたとえるなら、次の港(サイン)が見えているのに、もう寄り道する島がなく、ただ海を渡っているような時間です。
古くからの言い伝え
このボイドタイムは、伝統的にあまり物事を始めるのに向かない時間とされてきました。とくに、時機を選んで物事を始めるエレクション(電撃=開始の時刻選び)や、問いを立てて占うホラリーといった占星術の分野で、古くから注目されてきた考え方です。
17世紀イギリスの占星術家ウィリアム・リリーらの記述では、この時間に始めたことは「思ったようには展開しにくい」「実を結びにくい」と伝えられてきました。物事が宙に浮いたまま、はっきりした形になりにくい。そんなニュアンスです。そのため、重要な決断や契約、新しいことの開始は、この時間帯を避ける目安として使われてきました。
たとえば、大事な商談の開始や、申し込みの手続きといった「ここから始める」という行為は、ボイドタイムを外して時刻を選ぶ、という使い方です。ただし、これはあくまで古くからの伝統的な目安であって、「必ずこうなる」と断定できるものではありません。そこは留保して受け止めるのがよいでしょう。
どう活かすか
では、ボイドタイムをどう捉えればよいでしょうか。現代では、これを必ずしも避けるべき時間とは考えず、「流れがふっとゆるむ小休止」として前向きに受け取る見方もあります。
新しく何かを起こすには向かないとしても、裏を返せば、力をためる時間にできる、という考え方です。たとえば、大きな決断や開始は別の時間にゆずって、このあいだは休息にあてる。あるいは、部屋やデスクの片づけ、たまった書類の整理、いつものルーティン作業など、すでに始まっていることを淡々と進めるのに向いている、と捉えるのです。
たとえば、ボイドタイムだとわかったら、新しい企画を立ち上げるのは翌日にまわし、そのぶん今日は資料の見直しや身のまわりの整頓にあてる。そんなふうに、月の流れに合わせて行動のギアを少しゆるめてみる。占星術を、こわばらずに穏やかな実用の角度から楽しむやり方です。
月がどんな速さで動き、どのようにサインをめぐっていくのか、その詳しい性質は、本事典の天体「月」の項目をご覧ください。あなた自身のチャートで月がどこにいるかは、「無料のホロスコープ作成」で確かめられます。