ハウスシステムとは何か
ホロスコープを構成する要素のうち、12のハウスは「人生のどの領域でエネルギーが働くか」を示す場の区分です。たとえば第1ハウスは自己や身体、第7ハウスはパートナーシップ、第10ハウスは社会的な地位や仕事といったテーマを担います。詳しくは
ハウスとはを参照してください。
ただしハウスは、天球のどこかに物理的に引かれた固定の線ではありません。観測者である人間が、天球上の位置関係をどう「区切るか」によって決まります。この区切り方の方式が
ハウスシステムであり、各ハウスの境界線のことを
カスプと呼びます。
なぜ複数のシステムが存在するのかというと、「天球をどの基準軸で、どのように等分するか」という問いに対して、数学的・哲学的に正当な答えが複数存在するからです。地平線・天頂・天の赤道・黄道のいずれを分割の基準にするか、時間を等分するのか空間を等分するのかによって、カスプの位置が変わります。紀元前から21世紀にいたるまで、占星術家や数学者たちが独自の答えを提案してきた結果、今日では10種類以上のシステムが現役で使われています。
本コラムでは、現代の占星術で広く用いられる9つの主要システムを、考案者・年代・分割原理・特徴・推奨用途のフォーマットで並列に解説します。他サイトや書籍でシステムを比較する際の参照リファレンスとしてお役立てください。
区分の二大原理:空間分割と時間分割
9つのシステムを整理するとき、もっとも重要な分類軸は「何を等分するか」という問いです。大きく分けると、等分系、空間分割系、時間分割系の3つのグループに整理できます。
等分系は、黄道そのものをシンプルに30度ずつ切り分けます。ホールサインとイコールハウスがこのグループに属します。緯度の影響を受けないことが最大の特徴で、計算も直感的に理解しやすいです。
空間分割系は、観測者を取り巻く三次元の空間を幾何学的に等分し、その境界を黄道へ投影します。ポルフィリー、カンパヌス、レギオモンタヌスがこのグループです。何を基準軸にするかによって3者の計算方法は異なりますが、いずれも「空間の分割」という思想を共有しています。
時間分割系は、天体や特定の点が空を移動する「時間」を等分する考え方に基づきます。アルカビティウス、プラシダス、コッホ、トポセントリックの4つがこのグループです。出生地の緯度によってハウスの幅が大きく変わることが特徴で、高緯度地方では使用に制約が生じることがあります。
これらのグループを念頭に置くと、各システムが採用している哲学の違いが見えやすくなります。どのシステムを選ぶかは、天球をどのように捉えるかという立場の違いでもあります。
ホールサイン(最古のシステム)
考案者・年代:紀元前2〜1世紀のヘレニズム占星術で生まれた、現存する最古のハウスシステムです。特定の考案者はいません。古代ギリシア・ローマの占星術文献に広く記されており、『テトラビブロス』よりも古い時代の原典にさかのぼることができます。
分割原理:アセンダント(ASC)が入っているサイン全体を第1ハウスとし、そこから順に次のサインを第2ハウス、その次のサインを第3ハウスと続けていきます。「サイン1つ=ハウス1つ」という完全な一対一対応が原則で、カスプは各サインの0度に固定されます。
特徴:最古であるがゆえに、ホールサインはすべてのハウスシステムの原型とも呼べる存在です。黄道の30度区間がそのままハウスになるため、天体がどのハウスに属するかは一目瞭然です。緯度の影響をまったく受けないため、北極圏や南極圏の高緯度地でも問題なく適用できます。
中世以降、象限式(クワドラント式)のシステムが普及するにつれてホールサインは徐々に使われなくなりました。しかし、20世紀後半にギリシア・ローマの古典占星術文献が再評価されるなかで「失われたシステム」として再発見され、現在では古典派・ヘレニズム占星術の実践者を中心に世界的に広く使われています。
推奨用途・注意点:ヘレニズム占星術や古代のテクニックを学ぶ際には必須のシステムです。アセンダントとMC(中天)が同じハウスに入ることがあり、MCは第10ハウスのカスプとは一致しません。MCは別途独立した感受点として扱う必要があります。また、ハウスの幅がすべて均一(30度)になるため、緯度による変化を重視する現代的な読み方とは使い勝手が異なります。
詳細:
ホールサインの詳細
イコールハウス
考案者・年代:イコールハウスは、プトレマイオス(2世紀)にも遡るとされる古い等分方式です。特定の考案者があらためて提唱したというより、古代から継承されてきた等分の考え方の一形態です。
分割原理:アセンダントの正確な度数(たとえば蠍座15度)を第1ハウスのカスプとし、そこから30度ずつ12等分していきます。第2ハウスのカスプは射手座15度、第3ハウスのカスプは山羊座15度、というように、黄道上のアセンダントの度数と同じ度数がすべてのハウスのカスプになります。
特徴:名前の通り、すべてのハウスが正確に30度という「等しい」幅を持ちます。ホールサインと似ていますが、ホールサインがサインの0度からハウスを始めるのに対し、イコールハウスはアセンダントの正確な度数からハウスを始める点が異なります。そのためアセンダントは必ず第1ハウスのカスプの上に乗りますが、MCは第10ハウスのカスプと一致しません。MCは独立した感受点として別途読む必要があります。
計算がシンプルで理解しやすいため、占星術を学びはじめた段階でも扱いやすいシステムです。緯度の影響を受けないため、高緯度地でも正常に機能します。英語圏の占星術教材では、初学者向けの説明にイコールハウスを採用しているケースが多く見られます。
推奨用途・注意点:初学者がハウスの概念を理解するための入口として優れています。MCを第10ハウスのカスプとして読みたい場合はプラシダスなど象限式のシステムを選ぶほうが適切です。
詳細:
イコールハウスの詳細
ポルフィリー
考案者・年代:3世紀の新プラトン主義哲学者ポルピュリオス(ラテン語名:ポルピュリウス。英語名:ポルフィリー)に帰される方式です。ただし、このシステムの起源については諸説あり、ポルピュリオス自身が独自に考案したとは言い切れないとする研究者もいます。現存する文献のなかで最も整理された形でこのシステムを記述したことから、名を冠されたと考えられています。
分割原理:まずASC(アセンダント)、IC(天底)、DSC(ディセンダント)、MC(中天)という4つのアングルを確定します。これら4点が天球を4つの象限に分けます。各象限をさらに単純に3等分し、合計12のハウスを得ます。等分するのは「象限内の黄道の弧」であり、各ハウスの幅は象限によって異なります。
特徴:象限式(クワドラント式)のハウスシステムとしては最古級に属します。4アングルを先に確定させてから各象限を3等分するという発想は、その後に登場する多くのシステムの共通の土台になっています。計算が比較的容易で、概念的にも「まず4つの大きな区切りを作り、それぞれを3分する」という手順が明快です。MCが第10ハウスのカスプに、ICが第4ハウスのカスプに固定されるため、アングルの重要性を保ちながらも計算を単純化できます。
推奨用途・注意点:古典占星術の研究者や、象限式の思想を残しつつ計算のシンプルさも重視したい場合に適しています。高緯度地では各象限の幅が大きく偏ることがありますが、プラシダスやコッホのような時間分割系と比べると極地での計算破綻は起きにくいです。
詳細:
ポルフィリーの詳細
アルカビティウス
考案者・年代:10世紀のイスラムの占星術家・天文学者・数学者であるアル・カビーシー(アラビア語:أبو الصقر عبد العزيز بن عثمان بن علي القبيصي)のラテン語名「アルカビティウス」にちなみます。中世ヨーロッパへの伝播はラテン語訳を通じて行われたため、この名が定着しました。
分割原理:時間分割系の一つです。アセンダントが地平線から昇り、天頂を経て地平線に至るまでの弧を半球として、その弧を3等分して上半球の3つのハウスを決定します。下半球も同様の原理で3等分します。天の赤道の日周運動をもとにした「準赤経」の等分を用いるという計算方法が特徴です。
特徴:中世ヨーロッパの占星術では、アルカビティウスはプラシダスが普及するまでの長い期間、非常に広く用いられていました。アラビアの天文学者が精密化した計算理論がラテン語圏に移入されたことで、中世ヨーロッパにおけるハウス計算の標準的な方式の一つとなりました。現代では同じく時間分割系のプラシダスが主流となったため、アルカビティウスを日常的に使う占星術家の数は限られていますが、中世占星術の研究者にとっては欠かせないシステムです。
推奨用途・注意点:中世の占星術テクニック(例:フィルダリア法やアラビックパーツの古典的な読み方など)を研究・実践する際に有効です。高緯度では計算に制約が生じる場合があります。
詳細:
アルカビティウスの詳細
カンパヌス
考案者・年代:13世紀イタリアの数学者カンパヌス・オブ・ノヴァラ(Campanus of Novara、およそ1220〜1296年)に帰されるシステムです。カンパヌスはイタリアの数学者・天文学者・神学者で、教皇ウルバヌス4世の宮廷天文学者も務めた人物です。彼のユークリッド原論の翻訳は後世に大きな影響を与えました。
分割原理:空間分割系の一つです。観測者の真上を通る「プライムバーティカル(卯酉圏、東西大圏)」と呼ばれる大円を12等分し、その分割点を黄道へ投影することでカスプを決定します。観測者を取り巻く三次元空間のうち、東西を通る大円を等分するという幾何学的な発想に特徴があります。
特徴:このシステムの分割はある意味で「もっとも空間的に素直な分け方」とも言えます。観測者の頭上から地平線まで、東西に走る大円を均等に切り分けるため、観測者が経験する「空間のあり方」を反映しようとする意図が感じられます。現代では採用者が少ないですが、カンパヌスの「空間を物理的に等分する」という発想は、その後のレギオモンタヌスにも引き継がれています。モダン・ルネサンス占星術の文脈での研究に用いられることがあります。
推奨用途・注意点:主として中世後期から近世の占星術文献を読む際の歴史的参照として重要です。高緯度では歪みが大きくなります。
詳細:
カンパヌスの詳細
レギオモンタヌス
考案者・年代:15世紀ドイツの天文学者ヨハネス・ミュラー・フォン・ケーニヒスベルク、通称レギオモンタヌス(Regiomontanus、1436〜1476年)に帰されるシステムです。レギオモンタヌスは精密な天文表の作成でも知られ、ニュルンベルクに印刷所を設けて天文・数学の書籍を出版するなど、近世ヨーロッパの天文学の発展に大きく貢献しました。
分割原理:空間分割系の一つです。カンパヌスがプライムバーティカルを等分したのに対し、レギオモンタヌスは「天の赤道」を12等分し、その分割点から導かれる大円と黄道との交点をカスプとします。赤道を一定の弧に分けて黄道に投影するという発想で、カンパヌスの手法を天の赤道を基準にして改良したともみなされています。
特徴:15世紀から17世紀にかけての近世ヨーロッパで非常に広く使われたシステムです。ウィリアム・リリーをはじめとする著名な近世占星術師の多くがレギオモンタヌスを用いており、占星術の黄金時代とも呼ばれるこの時期の文献を読む際には欠かせません。現代のホラリー(問い占)占星術の実践者のなかには、リリーの技法に従ってレギオモンタヌスを採用する例もあります。
推奨用途・注意点:15〜17世紀の占星術文献(ウィリアム・リリー『キリスト教占星術』など)を読む際には必須です。ホラリー占星術でこの時代の技法を踏襲したい場合にも適しています。高緯度では歪みが生じます。
詳細:
レギオモンタヌスの詳細
プラシダス(本サイト採用)
考案者・年代:17世紀イタリアの数学者・オリヴェタン会修道士プラチドゥス・デ・ティティス(Placidus de Titis、1603〜1668年)が考案・整備したシステムです。プラチドゥスはイタリアのパドヴァ大学で数学を教え、天体の運動と占星術的な時間分割の研究を生涯続けました。彼の著作は18世紀に英語訳されてイギリスに伝わり、そこから世界的な普及が始まりました。
分割原理:時間分割系の一つで、現代で最も広く採用されているシステムです。具体的には、黄道上の各点がIC(天底・地平線の真下)から出発して地平線を越え、天頂(MC)に達するまでの時間を3等分します。地平線以下も同様の考え方で処理し、12のハウスのカスプを決定します。天体がその空を移動する「時間」の等分という発想が、このシステムの核心にあります。
特徴:プラシダスは現代の占星術において最も広く採用されているハウスシステムです。占星術ソフトウェアのデフォルト設定、占星術雑誌や教材で示されるチャートの多くがこの方式を採用しており、「ハウスシステムと言えばプラシダス」という認識が現代では一般的です。本サイトのホロスコープ計算も、この方式を採用しています。緯度に応じてハウスの幅が変わるため、赤道付近では各ハウスがほぼ均等になり、中緯度(日本など)では幅の偏りが生じてきます。
注意点:緯度66度以上の北極・南極圏では計算が数学的に破綻します。このため極地に居住・出生した人物のチャートには使用できません。その場合はホールサイン、イコールハウス、ポルフィリーなどの代替を選択します。
詳細:
プラシダスの詳細
コッホ
考案者・年代:ドイツの占星術家ヴァルター・コッホ(Walter Koch、1895〜1970年)が提唱したシステムです。コッホはドイツの占星術家・著述家で、このシステムの計算表が広く世に出たのは1971年のことです。英語圏ではWalter Kocher、Wilhelm Kocher名義の文献で参照されることもあります。
分割原理:時間分割系の一つで、「バースプレイス(出生地)システム」とも呼ばれます。出生地の緯度をとくに強く反映する計算方法が特徴です。アセンダントが誕生した緯度でMCを通過するのにかかる時間をもとに分割を決定するという、出生地の地理的条件を重視するアプローチを採ります。
特徴:20世紀後半、とくにドイツをはじめとするヨーロッパで広く普及しました。「出生地の緯度を重視する」という思想は、ネイタル(出生)占星術において出生地の重要性を強調する占星術家に支持されています。結果的に得られるカスプはプラシダスと似た傾向を示しますが、中間ハウス(2・3・5・6・8・9・11・12ハウス)のカスプ位置が異なります。現代においても使用者がおり、特にドイツ語圏の占星術の伝統の中で位置づけられています。
推奨用途・注意点:出生地の緯度をとくに重視した読みをしたい場合、または20世紀ドイツの占星術の技法を研究する際に適しています。プラシダスと同様に、高緯度では計算が困難になり、極地では使用できません。
詳細:
コッホの詳細
トポセントリック
考案者・年代:アルゼンチンの占星術家ウェンデル・ポリッチ(Wendel Polich)とアンソニー・ネルソン・ページ(Anthony Nelson Page)が1964年に発表したシステムです。2人は実際の人生の出来事とハウスの配置を照合する経験的な研究を長年続け、その結果としてこのシステムを導き出しました。
分割原理:時間分割系に分類されますが、その出発点は純粋に数学的な理論構築ではなく、実際の出来事とチャートを照合するという経験的・帰納的なアプローチでした。観測者が実際に立っている地表の「点(トポ=場所)」を起点とした計算方法であることが名称の由来です。計算結果はプラシダスに極めて近くなるため、実務的な差はほとんど生じないことで知られています。
特徴:プラシダスとほぼ同じカスプ位置を示しながら、その計算の哲学的立場が異なります。プラシダスが純粋な時間の等分を数学的に定義したのに対し、トポセントリックは「人生の出来事に最もよく符合するシステムを経験的に探った結果」です。2名の考案者が長期間にわたって事例研究を積み重ねた末に到達したシステムという点で、占星術史のなかでも異色の経緯を持ちます。現代では採用者は多くありませんが、研究目的でプラシダスとの差異を比較する際などに参照されます。
推奨用途・注意点:プラシダスとほぼ同じ結果を得ることが多いため、トポセントリックを独立して選ぶ積極的理由は少ないです。占星術史や方法論の研究、あるいはプラシダスとの計算上の差を精密に調べたい場合に意義があります。
詳細:
トポセントリックの詳細
どのハウスシステムを選ぶか
9つのシステムを見てきましたが、「どれが正しい」という絶対的な答えはありません。各システムには数学的・哲学的な根拠があり、それぞれの立場から正当性を主張することができます。以下では、目的別の選び方の指針を示します。
占星術を学びはじめた段階では、プラシダスかイコールハウスが現実的な選択肢です。プラシダスは現代の書籍・ソフトの標準であるため、他の資料と照合しやすいです。イコールハウスは計算が直感的で理解しやすく、ハウスの概念を学ぶ入口として機能します。本サイトの計算機もプラシダスを採用しているため、サイト内の各ハウスページの記述と合わせて読む場合にはプラシダスが便利です。
ヘレニズム・古典占星術を探求したい場合は、ホールサインが事実上の標準です。古代ギリシア・ローマの文献のほとんどがホールサインを前提に書かれており、アンティオコス、ウェットゥス・ヴァレンス、パウルス・アレクサンドリノスといった古典著者の技法を実践するにはホールサインが必要です。
中世占星術の技法(ホラリー・エレクション・ムンデン等)を研究する場合は、使いたい文献の著者が採用したシステムを選ぶことが基本です。ウィリアム・リリーの技法ならレギオモンタヌス、中世イスラムの占星術ならアルカビティウス、という選択が文献の内容と整合します。
心理占星術や現代占星術で一般的な実践をする場合は、プラシダスかコッホが広く使われています。コッホは出生地の緯度を重視する傾向があり、「どこで生まれたかがチャートに強く影響する」という立場をとる占星術家に支持されています。
北極圏・南極圏の高緯度地に出生した方のチャートを扱う場合は、プラシダス・コッホ・アルカビティウスは使用できません。ホールサイン、イコールハウス、またはポルフィリーを選んでください。
複数のシステムを比較してみることも、学びを深める上で有効です。同じチャートをプラシダスとホールサインで並べてみると、どの天体がどのハウスに属するかの違いが一目でわかり、各システムの思想の違いが体感的に理解できます。どのシステムも、天球という同じ現実を別の角度から切り取っているに過ぎません。
自分のチャートを実際に見てみることが、どのシステムが自分の経験に合うかを確かめる最初の一歩になります。
無料のホロスコープ計算機で自分のチャートを見る(プラシダス方式)