私たちが使う惑星の名は、古代ローマの神々に由来します(英語名はそのローマ神の名そのものです)。そしてローマの神々の多くは、より古いギリシャ神話の神と重ね合わされてきました。
・水星(マーキュリー=ヘルメス)……神々の伝令。言葉・商い・移動の神。
・金星(ヴィーナス=アフロディーテ)……愛と美の女神。
・火星(マーズ=アレス)……戦いの神。
・木星(ジュピター=ゼウス)……神々の王。拡大と恵み。
・土星(サターン=クロノス)……時と秩序、農耕の神。
火星を戦いの神と聞くと攻撃的な天体だと誤解されがちですが、アレスが体現するのは目的に向かって行動を起こす力そのもので、自分の領域を守るために踏み出す勇気も同じ火星の領域に含まれます。
天体に占星術が与える意味(水星なら言葉と知性、金星なら愛と美、火星なら情熱と闘い)は、その神が司った領域とそのまま重なっています。
この神話と天体の結びつきは、じつは毎日の暮らしにも残っています。曜日です。日曜(太陽)、月曜(月)、火曜(火星)、水曜(水星)、木曜(木星)、金曜(金星)、土曜(土星)。日本語の七曜は、そのまま古典の七天体の名前でできています。英語やフランス語の曜日名も、同じ神々に由来します。私たちは知らないうちに、一週間ごとに神話の天体をひと巡りしているのです(→コラム「古典の7天体と、現代の3天体」)。
望遠鏡の時代に発見された外惑星にも、神話の名がつけられました。天王星(ウラノス=天空の神)、海王星(ネプチューン=海の神ポセイドン)、冥王星(プルート=冥界の王ハデス)。
おもしろいのは、占星術がこれらの星に与えた意味も、神話の性格をなぞっている点です。天空神ウラノスの天王星は「既存の枠を破る革新」、海の神ネプチューンの海王星は「境界が溶ける夢と幻想」、冥界の王プルートの冥王星は「死と再生の深い変容」。星の名と意味は、神話というひとつの物語で結ばれているのです(各天体のくわしい意味は「天体」各ページへ)。
チャートでは、天王星がどのハウスに入っているかを見ると、人生のどの領域で既存の枠を破る動きが起こりやすいかが読めます。海王星は現実と理想の境目がにじむ領域を、冥王星は逃げようのない根本的な変容がどこで起こるかを教えてくれます。天王星の革新は単なる目新しさではなく当たり前とされてきた枠組みを問い直す力として、海王星の夢と幻想はただの空想ではなく直感やインスピレーションの豊かさとして、冥王星の死と再生は実際の死ではなく古い自分を手放してまったく違う形に生まれ変わるような深い変化として現れます。
日常でいえば、当たり前のやり方を疑って新しい方法に切り替える瞬間に天王星、割り切れない感情や創作に没頭する時間に海王星、後戻りできない大きな決断を下す瞬間に冥王星の気配を感じ取れるかもしれません。
神話という視点を取り入れるメリットは、天体の意味が「丸暗記の知識」ではなく「腑に落ちる物語」になることです。火星を「闘いの神アレス」として思い描けば、火星が情熱や怒り、競争を司る理由が、すっと身体に入ってきます。
たとえば火星と金星が同じ星座に並ぶ人なら、戦うアレスと愛するアフロディーテが同じ舞台に立っている姿として読めます。情熱と優しさ、競争心と親しみやすさが、ひとりの中でせめぎ合いながら同居している人物像が浮かび上がってくるはずです。
神話は、何千年も語り継がれるあいだに磨かれた「人間の心の型」の宝庫です。占星術はその型を、空の天体に重ねて読みます。だから、自分のチャートの天体を神々のキャラクターとして眺めると、自分の内側にいる多彩な登場人物(行動するアレス、愛するアフロディーテ、考えるヘルメス)が見えてきます。それは、自分を一面的に決めつけず、豊かに理解し直すきっかけになります。
ここで注意したいのは、神話のキャラクターをそのまま性格診断のラベルとして当てはめてしまうことです。アレスの物語は闘争心の強さだけでなく、時に無謀な行動に走る危うさも含んでいます。ひとつの天体を一色に塗りつぶさず、光と影の両面を持つ神様として眺めることが、物語を読みの手がかりに変えるコツです。
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