カノープスはりゅうこつ座のα星で、視等級はおよそマイナス0.74。太陽を除けば、おおいぬ座の
シリウスに次いで全天で2番目に明るい恒星です。スペクトル型はA9 II(資料によってはF0とするものもあります)に分類される白色の輝巨星で、地球からの距離はおよそ310光年(約95パーセク)と見積もられています。もとは巨大な「アルゴ船座(アルゴ座)」の一部で、1763年にこの星座がりゅうこつ座・とも座・ほ座へ分割された結果、りゅうこつ座のα星となりました。船底(竜骨)から舵にかけての位置を占める星です。名は2世紀の『アルマゲスト』にカノーボスとして記録され、トロイアからの帰路にエジプトで没したと伝えられるメネラオスの船の水先案内人にちなむという説と、ナイル河口の港町の名に由来する説が並び立っています。日本では南の低い空にしか現れません。見える北限はおよそ北緯37度18分とされ、大気差を含めて東京では地平線から2度ほど、京都でも3度ほどの高さにしか昇らないため、大気に赤く染まった姿が短時間だけ見えるにとどまります。そのため老人星、南極老人星と呼ばれてきました。房総半島では漁港の名をとって布良星(めらぼし)と呼ばれ、こちらは遭難した漁師の魂と結びつけられた土地の伝承を伴います。中国では南極老人、寿星と呼ばれ、この星を見た者は長生きするという言い伝えが残ります。道教で神格化された南極老人は、日本の七福神の寿老人や福禄寿のモデルだとも言われます。
プトレマイオスは『
テトラビブロス』の恒星の性質を扱う章で、アルゴ船の星々をおしなべて土星と木星の性質を帯びるものと記しました。カノープスもこの記述に含まれるため、恒星占星術では土星・木星的な星として扱われるのが土台になっています。ヴィヴィアン・ロブソンは『The Fixed Stars and Constellations in Astrology』(1923)で、この星が敬虔さ、保守性、広く総合的な知識、航海と教育にかかわる仕事をもたらし、悪しきものを善きものへ転じる、と紹介しました。船の星であることから、同書がアルゴ船座全体について述べる交易や航海、さらには水難にまつわる記述もありますが、いずれも条件を付した古い言い伝えとして受けとめるべきもので、吉凶を確定するものではありません。バーナデット・ブレイディは『Brady's Book of Fixed Stars』(1998)で、カノープスをアルゴ船の舵の一部にある星として挙げ、道を見いだすこと(pathfinding)を告げる星だと記しています。
恒星を出生図で読むときは、
合を中心に、1〜2度以内という狭い
オーブで見るのが伝統的な作法です。太陽や月といった光度天体、あるいはアセンダント・MCなどのアングルにカノープスが狭く重なるとき、その天体やアングルが示すテーマにこの星の象徴が色を添えると読まれてきました。黄道上の位置は
歳差によって約72年で1度ずつ進みます。トロピカルの黄経は2000年時点でかに座14度59分付近、2050年にはかに座15度41分付近とされますので、現在はかに座15度台の前半にあたります。出生年と、使用する座標系(トロピカルかサイデリアルか)を確かめたうえで、星座記号ではなく実際の黄経で照合してください。なお、ブレイディが用いるパランは星の出・南中・入り・下方中天という日周の四つの現象を基準にするため、カノープスが地平線上に昇らない北緯37度18分(ブレイディは37度と丸めています)より北の出生地では、この星をパランとして扱えないという前提があります。日本の多くの地域では黄経による合として読むのが現実的です。いずれにせよ象徴を読み解く手がかりであり、運命や結果を断定するものではありません。
カノープスは、全天でもっとも明るいシリウスと対にして語られることの多い星です。一方で、中世の天文魔術で重んじられた
ベヘニアン恒星の十五星にも、天の四方を見張るとされる
ロイヤルスター(四王星)にも、カノープスは含まれていません。これらの体系は、いずれも北半球の中緯度から見上げやすい星を中心に組まれています。南天の低みにあって、見えたこと自体が語り草になるカノープスの立ち位置は、恒星が土地の空と結びついて意味を育ててきたことを示しています。星の名の由来やりゅうこつ座の物語、日本での見え方については用語
カノープスを、恒星という枠組みそのものの考え方と読み方の作法についてはコラム
恒星(フィクストスター)とはをあわせてご覧ください。