デネブ・アルゲディは、
やぎ座のδ星にあたる星です。視等級はおよそ2.81で、3等より明るい星をほかに持たないやぎ座のなかでは、もっとも明るい星にあたります。やぎ座は黄道十二星座のなかで最小の星座でもあり、その控えめな星域で目印になるのがこの星です。距離はおよそ38.7光年と太陽系に近く、スペクトル型はA7m IIIの白色星に分類されます。ただし単独の星ではなく、アルゴル型の食変光星として知られています。およそ1.02日の周期で、主星と伴星が互いを隠すたびにわずかに減光し、主極小では2.81から3.05まで、副極小では2.90ほどまで暗さを増します。国際天文学連合は2017年2月1日に、この星系の主星の固有名としてデネブ・アルゲディを正式に承認しました。名はアラビア語の dhanab al-jady に由来し、「やぎの尾」を意味します。星座絵でも、まさに尾にあたる位置に置かれてきました。やぎ座は上半身がやぎ、下半身が魚という姿で描かれ、その原型はバビロニアの「スフルマーシュ(やぎ魚)」とエア神にさかのぼるとされます。ギリシア神話では、怪物テュポーンから逃れるために下半身を魚に変えて川へ飛び込んだ牧神パーンの姿と語られ、幼いゼウスに乳を与えたアマルテイアの山羊と結びつける伝承も伝えられています。
恒星の性質を惑星にたとえて体系化したのは2世紀の
プトレマイオスで、その記述は
『テトラビブロス』に残されています。ヴィヴィアン・ロブソンは『The Fixed Stars and Constellations in Astrology』(1923年)で、デネブ・アルゲディをプトレマイオスに帰して
土星と
木星の性質を帯びる星として紹介しました。ロブソンはこの星を象徴的に「山羊の裁きの点(Judicial Point of the Goat)」と呼び、恵みと破壊、悲しみと喜び、生と死という、対になる二つの働きをあわせ持つ星として伝えています。土星の限定と木星の拡大という方向の異なる質が一つの星に重ねられていることが、この対句的な言い回しにあらわれているとされます。また中世ヨーロッパの天文魔術では、アグリッパ『隠秘哲学三書』が挙げた15の
ベヘニアン恒星の一つに数えられ、鹿ややぎ、あるいは怒れる人の像を刻み、カルセドニーの石とマヨラナの草を対応させる護符の伝承が残されました。これらは歴史的な象徴の記録として読まれるもので、効き目を保証するものではありません。
恒星はサインやハウス全体ではなく黄道上の一点として扱うため、出生図では1〜2度以内の狭いオーブ、とくに
合(コンジャンクション)を重視して読みます。ここで注意したいのは、星そのものは星座としてのやぎ座にありながら、トロピカル黄道上の位置は
水瓶座に入っているという点です。文献に記された黄経は、J2000(2000年)で水瓶座23度32分から33分、2050年でおよそ24度15分とされます。歳差により恒星の黄経は約72年で1度進むため、2020年代のいまはおよそ水瓶座23度台の後半にあたります。太陽や月、あるいはアセンダント・MCといったアングルがこの度数に狭く重なる配置は、その天体やアングルが示すテーマに、土星的な節度と木星的な広がりという二つの色合いが同時に加わるものとして語られてきました。使用する暦や基準(トロピカルかサイデリアルか)で度数は変わりますので、読図の前に確認してください。いずれにせよ象徴を読み解く手がかりであり、出来事や結果を断定するものではありません。
名前のよく似た
デネブ(はくちょう座α星)とは別の星です。デネブはアラビア語で尾を意味する語で、白鳥の尾のデネブ、やぎの尾のデネブ・アルゲディというように、いくつもの星座の尾にあたる星が同じ語を共有しています。混同しやすいので、文献を読むときは所属星座もあわせて確かめると安心です。また、隣のγ星ナシラと合わせて「アル・サアド・アル・ナーシラ(幸をもたらすもの、吉報の運び手)」と呼ばれた古い星名の伝承も伝わります。ベヘニアン15星という枠組みの全体像は用語集の「ベヘニアン恒星」を、合のオーブや歳差の考え方、恒星を実際に読む手順はコラム
「恒星(フィクストスター)とは」をあわせてご覧いただくと、この星の位置づけがより立体的に見えてきます。