アルカイドはおおぐま座のη星で、北斗七星の柄の先端、熊の尾の先にあたる星です。視等級はおよそ1.86の2等星、スペクトル型B3Vの青白い主系列星で、地球からの距離はおよそ104光年とされます。自転が非常に速く、赤道方向に膨らんだ形をしていると考えられています。北斗七星を形づくる星の多くは「おおぐま座運動星団」として空間的に共通の運動をしていますが、アルカイドはこの群れに属していません。そのため遠い未来には、見なれた北斗七星の形もゆっくり崩れていくと考えられています。名はアラビア語のカーイド・バナート・ナアシュ、「棺を悼む娘たちの長」に由来します。古代アラビアでは、ひしゃく形の器の部分を棺(ナアシュ)、柄をなす三つの星をその葬列に従う娘たちと見立てており、先頭に立つのがこの星でした。ベネトナシュ、エルケイドといった別名も、同じ呼び名の別々の部分に由来します。一方ギリシャ神話では、おおぐま座はカリストーの変じた姿として語られ、アルカイドはその長く伸びた尾の先端に置かれています。
プトレマイオス『テトラビブロス』の恒星の記述では、おおぐま座の星々は
火星の性質を帯びるものとして扱われました。ヴィヴィアン・ロブソン『The Fixed Stars and Constellations in Astrology』はこの伝統を受け、おおぐま座について、静かで思慮深く、用心深く、自制的で忍耐強い性質を与える一方、いったん怒りに触れると強い憤りと報復の思いが表れる、と紹介しています。ロブソンは同じおおぐま座の項で、カバリストがこの星座にヘブライ文字ザインとタロットの第7「戦車」を結びつけてきたことも書き添えています。他方、アグリッパ『隠秘哲学三書』が伝える
ベヘニアン恒星の一覧では、この星は「大熊の尾」として金星と月に対応づけられ、宝石は磁石(ロードストーン)、植物はチコリが結びつけられています。20世紀のエバーティンの恒星研究では、火星・天王星・土星的な質が挙げられ、死と喪の主題と関連づけられたと紹介されてきました。同じ星が火星的とも金星・月的とも語られてきたのは、星座ごとに性質を割り当てる伝統と、護符の対応表をつくる伝統とで系統が異なるためで、どちらか一方だけが正しいというものではありません。
恒星を出生図で読むときは、伝統的に1〜2度以内という狭い
オーブ、とくに
合を重視します。太陽・月やアセンダント・MCといったアングルにアルカイドが狭く重なる配置は、その天体やアングルの示すテーマに、この星に託されてきた象徴の色合いが加わると読まれてきました。位置は
歳差により約72年で1度進み、資料ではJ2000で乙女座26度56分、2050年で乙女座27度39分とされています。2020年代なら乙女座27度台の前半にあたる計算になりますので、実際の鑑定では出生年に応じた度数で重なりを確かめてください。乙女座の末に近い位置のため、
レグルスが乙女座0度付近へ移ったのと同じく、サインの境界をまたぐ扱いには注意が必要です。伝統の記述には激しい語も含まれますが、恒星との重なりが出来事や性格を決めるものではなく、象徴を読み解く手がかりとして扱われます。
アルカイドは、中世の天文魔術で重んじられた15のベヘニアン恒星の一つに数えられ、
アルゴルやスピカ、アークトゥルスなどと同じ系譜の中で語られてきました。天の四方を見張るとされる
四王星には含まれませんが、北天でもっとも見つけやすい星の並びの端にあるという点で、実際に空を見上げながら学ぶのに向いた星です。柄をたどればミザール、アリオトと続き、ミザールは肉眼で寄り添う伴星アルコルを見分けられることでも古くから知られてきました。恒星そのものの考え方は用語「
恒星(フィクストスター)」を、出生図での具体的な扱い方はコラム「
恒星(フィクストスター)とは」をあわせてご覧いただくと、アルカイドの位置づけがより立体的に見えてきます。