ネッススは、ギリシャ神話のケンタウロス、ネッソスに由来します。アポロドーロスらの伝える筋を要約すると、彼はエウエノス川の渡し守で、その務めは自分の正しさゆえに神々から授かったのだと称していました。ヘラクレスは妻デイアネイラを渡してくれるよう彼に頼みますが、ネッソスは途中で彼女に乱暴を働こうとし、叫び声を聞いたヘラクレスの矢に射抜かれます。死にぎわ、彼はデイアネイラに自分の血を取っておくよう告げ、それは愛をつなぎとめる薬になるのだと偽りました。矢にはレルネのヒュドラの毒が塗られており、のちにその血を塗った衣をまとったヘラクレスは激しい苦しみに襲われ、みずから薪の山に身を投じたと語られます。天文学上のネッススは、1993年4月26日にキットピーク国立天文台のスペースウォッチ計画によって見つかった小天体で、小惑星番号は7066。キロン、フォルスに続いて発見された
ケンタウルス族の一つです。軌道はよく伸びた楕円で、
土星の軌道の外側にあたる約11.9天文単位から、海王星の外側の約37天文単位までを、およそ122年かけてめぐります。
この天体が占星術で語られるようになったのは、発見から間もない1990年代のことです。ケンタウルス族の研究をまとめた
メラニー・ラインハートは『Saturn, Chiron and the Centaurs』(1996年)に代表される一連の仕事のなかで、ネッススに「the buck stops here(責任はここで止まる)」という鍵となる言葉を与えました。長く続いてきた因果の連鎖が熟して結末を迎えること、そして受け継がれてきたものを自分の代で引き受け、そこで終わらせること。それがこの天体の中心にある主題だとされます。同書やその流れをくむ論考では、力関係のゆがみ、世代をこえて繰り返される傷つきのパターン、隠されてきたものが明るみに出るといった、扱いの難しい題材が取り上げられます。ただしこれらは象徴の読みとして提示されたものであり、実際の出来事や人柄を言い当てるためのものではありません。発見からの歴史が浅く、解釈の幅も研究者ごとに異なります。
出生図では、ネッススのあるサインとハウス、そして太陽・月・アセンダントなど主要な感受点との重なりから読み始めます。小惑星やケンタウルス族は10天体ほどの強さでは働かないとされ、オーブは狭くとり、合や強い角度に限って参考にするのが一般的です。単独で結論を出さず、まず10天体で骨格を描いてから、そこに細やかな陰影を足す補助として扱います。主題が繊細なだけに、断定やレッテル貼りを避ける配慮がとりわけ求められる天体でもあります。ラインハートの鍵句にならえば、ネッススを見るのは過去をあげつらうためではなく、繰り返されてきたものに気づいて自分のところで区切りをつける、という視点を得るためだということになります。なお公転周期が約122年と長いため、出生位置へ戻る回帰は一生のうちには訪れません。
ネッススは、
キロン・
フォルスとともに、ケンタウルス族の三天体として並べて語られます。キロンが自分の傷を通じた癒しを、フォルスが小さなきっかけから広がる連鎖をあらわすとされるのに対し、ネッススはその連鎖に区切りをつける側面を受け持つ、という整理です。環をもつことで天文学的に注目された
カリクローも、同じ族の一員にあたります。三天体の物語はコラム
キロン以降のケンタウルス族にくわしく、要点は用語集
ネッススにまとめてあります。感受点全体の位置づけはコラム
小惑星を読むをどうぞ。ネッススの位置は小惑星の計算に対応した占星術ソフトで確かめ、土台となる10天体のチャートは
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