エロス(Eros)は、ギリシャ神話で愛と欲望をつかさどる神です。その出自には二つの系譜が伝えられています。ヘシオドスの『神統記』では、カオス、ガイア、タルタロスに続いて4番目に生じた原初の神とされ、親を持たず、世界が形をとる働きそのものとして描かれます。いっぽう後世の伝承では、アプロディテの子として語られるようになりました。紀元前6世紀から5世紀の抒情詩人シモニデスは、アプロディテとアレスのあいだの子としています。ローマ神話ではクピド(アモル)にあたります。天文学上のエロス(小惑星番号433)は、1898年8月13日にベルリン・ウラニア天文台のC. G. ヴィットが発見しました。同じ夜にニース天文台のオーギュスト・シャルロワも同じ領域を撮影しており、独立発見として並記されることもあります。最初に発見された地球近傍小惑星として知られ、近日点が地球の軌道の外側(約1.13天文単位)にとどまるアモール群に分類されます。公転周期は約643日、細長い形をした石質(S型)の天体です。2000年2月14日にはNEARシューメーカー探査機が周回に入り、2001年2月12日にその表面へ降り立ちました。小惑星を周回した最初の探査機であり、小惑星に着陸した最初の探査機でもあります。
小惑星を読む実践のなかで、エロスは名前の由来どおり、欲望や情熱にまつわる感受点として扱われてきました。小惑星の解釈を体系的にまとめたマーサ・ラング=ウェスコットは『Mechanics of the Future: Asteroids』(1991年)などの著作で、エロスに、性のあり方、心臓と循環器、エロティシズムをめぐる経験の積み重ね、生の喜び、何に心を動かされるか、そして生きようとする意志といった主題を割り当てています。注目したいのは、その記述が性愛だけに閉じていない点です。むしろ「その人を生き生きとさせるものは何か」という、生への熱量そのものへ広く開かれています。デメトラ・ジョージとダグラス・ブロックの『Asteroid Goddesses』(1986年)も、4大小惑星に加えてプシケやエロスなど小さな小惑星を概観する章を設けています。いずれも吉凶を判定する指標としてではなく、その人の熱のありかを言葉にするための補助線として提案されたものです。
出生図では、エロスのあるサインを「どんな質感で心が動くか」、ハウスを「その熱がどの領域で立ち上がるか」の手がかりとして読みます。公転周期が約643日と短いため、同じ年に生まれた人どうしでも位置が分かれ、世代の指標ではなく個人差を映す点として扱えます。読むときは
オーブを狭く取り、
合や強い角度に限るのが穏当とされます。
火星や
金星との重なりは、欲望と魅力という近い主題を扱うため、とくに読み比べられます。ただしエロスは、10天体ほどの強さでチャートを動かすわけではありません。まず主要な配置で骨格をつかみ、そのうえで細やかな色合いとして重ねる。単独で意味を取り出さず、出生図全体の補助として置くのが基本です。
エロスは、しばしば
プシケと一組で語られます。二人の物語はアプレイウスの『変身物語(黄金の驢馬)』に収められた挿話として知られ、小惑星でも16番のプシケと433番のエロスが対になります。魂の側から見るプシケと、欲望の側から見るエロス。両方を並べると、惹かれ合うという出来事の輪郭が立体的になります。関係のテーマでは、約束と対等さをあらわす
ジュノーとも読み比べられます。小惑星全体の読み方はコラム「
小惑星を読む」で、どこまでの天体を採用するかという流派ごとの違いは「
小惑星・感受点を採用する流派、しない流派」で扱っています。まずは
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