どんな本か
『Relating: An Astrological Guide to Living with Others on a Small Planet』は、リズ・グリーンが1977年に英コヴェンチャー社(Coventure)から刊行した著作です。原題を直訳すると「関係すること:小さな惑星で他者とともに生きるための占星術ガイド」となります。グリーンの主著の一つに数えられ、日本語版は『占星学』(青土社・岡本翔子/鏡リュウジ訳)として刊行され、後に新装版・新版と版を重ねて読み継がれています。
本書が扱う中心テーマは、人と人との関係のなかに占星術をどう活かすかという問いです。チャートを単独の個人の自己理解にとどめず、他者との出会い、惹かれ合い、衝突、相互変容といった「関係すること(relating)」の場面に開いていく視点が一冊を通じて貫かれています。原題の動名詞「Relating」は、結婚・恋愛・友情・家族・職場の同僚といった具体的な関係性のすべてを包む広い言葉として選ばれており、グリーンはこれを「内なる無意識との関係」と「外なる他者との関係」の両方を含む象徴的なテーマとして読み直していきます。
印象的なのは、相性占星術(シナストリー)の技法解説書ではなく、心理的な深層に降りていくための象徴の地図として書かれている点です。グリーンはユング心理学の元型論を下敷きに、相手のなかに見ているのは自分の影や未発達な側面なのではないか、という問いを読者に向けます。占星術の用語を借りながら、関係性の困難の意味を「外から起きること」ではなく「内側で起きていること」として捉え直す姿勢が、本書を関係性占星術の古典として位置づけています。
著者と成立の背景
著者のリズ・グリーンは1946年9月4日、米ニュージャージー州エングルウッドに生まれ、後に英国に渡って活動の拠点を移した英米の占星術家・ユング派分析家です。心理学と歴史学の博士号を持つとされ、占星術家と心理学者という二つの専門性を同時に担う稀有な書き手として知られます。詳細は
著者ページを参照してください。
本書が世に出た1977年は、グリーンの最初の主著
『Saturn: A New Look at an Old Devil』(1976年)の翌年にあたります。『Saturn』が「土星」という一天体を入口に心理占星術の見方を提示した本だとすれば、『Relating』はその視座を「他者との関係」というより広い場面に拡張する試みでした。グリーン自身の文章のなかでは、人がチャートを通じて自己を知るとき、必ず「他者との関わり」という鏡が必要であるという認識が繰り返し示されます。
時代背景としては、1970年代の欧米で
デーン・ルディアの
『人格の占星術』が広めた「個人の全体性を読むための占星術」という発想が浸透しつつあった時期にあたります。同時期、英国では英国占星術連盟(FAS)の周辺で占星術教育の体系化が進み、グリーン自身もその場で講義を担ったとされています。本書はそうした英米の心理占星術の機運のなかで、ユング派分析家としての訓練を背景に書かれたものであり、占星術の語彙を借りて「関係性のなかで自分を知る」という主題を本格的に論じた最初期の一冊として成立しました。
内容と意義
本書の論旨は、関係性の困難を「相手の問題」や「外から降ってくる運命」としてではなく、自分のなかの未統合な部分が他者を介して経験される現象として読み直すところにあります。グリーンはユング心理学の概念、とりわけ「影(シャドウ)」「アニマ/アニムス」「投影」といった元型的な働きを下敷きに、太陽・月・金星・火星・土星といった天体が関係のなかで象徴する力を一つひとつ解いていきます。
たとえば月と金星は、自分が「愛されること」「居場所をもつこと」をどう体験するかの様式を示すと位置づけられ、火星は欲望と衝突の様式を、土星は関係のなかで自分が恐れているものや守ろうとしている境界を表すと読み解かれます。グリーンはこれらをチェックリストのように並べるのではなく、関係のなかで何度も繰り返される「いつも同じところで躓く」というパターンの背後に、本人の無意識の構造があると論じます。
本書独自の貢献は、相性を「合う/合わない」という二値で判定する見方を退け、関係性をその人の自己発見の場として捉え直した点にあります。原題のサブタイトル「小さな惑星で他者とともに生きるための」が示すとおり、本書は「占星術によって良い相手を見つける方法」を教える本ではなく、「占星術を手がかりに、目の前の他者ともう一度関わり直す」ための本として書かれています。この姿勢は
心理占星術の系譜においても重要な転換点となりました。
同時代・後世への影響
『Relating』は1977年の初版以降、1978年に索引付きの改訂版、1986年に英アクエリアン・プレス(Aquarian Press)版、1990年代に米ワイザー(Weiser Books)版と版元を継いで再刊されています。Open Libraryの書誌では計6種のエディションが確認でき、長く流通し続けている事実そのものが、本書の影響力の持続性を物語っています。ペーパーバック版は約290ページの構成です。
直接的な後継として挙げられるのは、グリーン自身が後年に発表した『Relationships and How to Survive Them』(1999年)です。こちらは『Relating』のテーマを講義録の形でより実践的に展開したもので、コンポジット・チャートやシナストリーの具体的な扱いに紙幅が割かれています。両者を併読することで、グリーンが関係性占星術の主題をどのように深めていったかを追うことができます。
影響はグリーン自身の著作にとどまりません。1983年に
ハワード・サスポータスと共同設立した心理占星術センター(CPA)の教育プログラムでは、本書で提示された「関係性のなかの心理占星術」という視点が基礎教材として参照され、サスポータスの
『12のハウス』や
スティーブン・アロヨの
『4元素の占星術』と並ぶ参照文献として位置づけられてきました。
日本では、岡本翔子と
鏡リュウジの共訳により『占星学』として2000年に青土社から刊行されました。新装版(2013年)、新版(2019年)と版を重ね、日本の心理占星術の読者層に長く読まれ続けています。邦訳のタイトルは「占星学」と短くされていますが、内容は原書の『Relating』に対応します。
位置づけと現代における意義
西洋占星術の歴史のなかで本書を位置づけるとき、その意義は「関係性占星術」という分野を心理的な深みをもって扱う視点を確立した点に集約されます。それ以前にも相性を扱う占星術の文献は数多くありましたが、その多くは技法の解説(シナストリーのアスペクト読み、コンポジット・チャートの作成法など)に重心がありました。本書はこれらの技法を取り上げつつも、技法そのものを目的とせず、「関係のなかで何が起きているのか」を心理的な象徴として読む姿勢を主軸に据えた点で、それまでの相性本とは異なる地平を開いています。
現代占星術の系譜においては、ルディアの「人格の占星術」が個人の全体性を読む視点を打ち出し、グリーンの『Saturn』が単独天体の心理学的読み替えを提示し、本書がそれを関係性の領域に拡張した、という流れとして読み解くことができます。後にコンポジット・チャートや
ハーフサムを心理学的な視座で扱う動きが英語圏で広がるなかでも、本書は理論的な土台として参照され続けてきました。
他の流派との対比では、ヘレニズム伝統の復興を進めた古典派占星術や、結果予測を重視する伝統的なシナストリー実践と比べたとき、本書はあくまで「内省と自己統合のための関係性占星術」という姿勢を貫きます。これは「誰と結ばれる運命か」を問うのではなく、「目の前の関係のなかで自分のどの部分が試されているのか」を問うアプローチであり、現代の占星術相談の現場で広く共有される視点の源流の一つとなっています。21世紀の読者にとっても、相性チャートを技法表として消費するのではなく、自分の内面を映す鏡として読み直す姿勢を学ぶ書物として、本書の意義は色褪せません。
この本を知る意義・学び方
本書を読む、あるいは知っておくことの価値は、関係性を「相手のせい/自分のせい」「合う/合わない」という単純な構図から解放し、「関係のなかで起きていることを自分の内面の物語として読み直す」視点を獲得できる点にあります。占星術を関係性の現場で活かしたいと考える読者にとって、本書はその姿勢を体系的に学べる古典的な入り口です。
入手については、英語原書は米ワイザー版(ISBN 0877284180)が現在も流通しており、Internet Archiveでも閲覧可能です。日本語で読みたい場合は、青土社から刊行されている『占星学』(岡本翔子・鏡リュウジ訳)が本書の邦訳にあたります。タイトルは原題よりも短く意訳されていますが、内容は『Relating』に対応しています。新装版(2013年)・新版(2019年)のいずれの版でも内容に大きな違いはありません。
読む順序としては、まず
『Saturn』で心理占星術の基本的な視座に触れてから本書に進むと、関係性に拡張された議論の文脈をつかみやすくなります。並行して
ハワード・サスポータスの
『12のハウス』を読むと、心理占星術の語彙が複数の角度から立体的に身についていきます。グリーン自身の続編にあたる『Relationships and How to Survive Them』を併読すれば、関係性占星術の論点をより実践的に追うことができます。占星術全体への接続としては、本書を「個人のチャートを他者との関係のなかで読み直す技法書」として位置づけたうえで、自分のチャートを手元に置きながら読み進めるのが最も実りある学び方です。
無料のホロスコープ計算機で自分のチャートを見る