どんな本か
『占星学』は、戦後日本における西洋占星術の代表的な日本語書として長く読み継がれてきた一冊です。著者は
ルル・ラブア、版元は実業之日本社で、初版刊行年は版元の公開資料からは確定できないものの、1990年代以降の版が確認でき(1995年版 ISBN 978-4-408-39439-8(旧ISBN 4-408-39439-X)/321ページ)、長年にわたり版を重ねたうえで、2017年3月には新装版(ISBN 978-4-408-45636-2、四六判352ページ)が刊行されています。判型は四六判で本文は約350ページ、定価は新装版で3,850円(税込)。実業之日本社は本書について「占星術界の最高峰が残した占星学の決定版」と紹介しており、入門者からプロまで使える総合書として位置づけられてきました。
本書の狙いは、英米で蓄積されてきた近代西洋占星術の体系を、日本語の一冊で見渡せるように整理することにあると読めます。実業之日本社の紹介文でも「占星術界の最高峰が残した占星学の決定版」「占星術を学ぶ人をはじめすべての人に必携の書」と位置づけられています。サンサイン(太陽星座)だけに頼る読み方ではなく、天体・星座・ハウス・アスペクトをすべて使って出生図(ネイタルチャート)を読み解き、進行図やトランジットで未来の流れを見ていく総合的な姿勢が貫かれている点が、印象的な切り口です。雑誌の星座コーナーで西洋占星術を知った読者が、次に手に取る「教科書」として広く流通してきました。書名に「占星学」という漢字表記を採用している点も時代の刻印で、「学」と銘打つことで娯楽的なサンサイン記事から一線を画し、出生図を体系的に解読する技法として西洋占星術を提示しようとする意図が読み取れます。
著者と成立の背景
著者の
ルル・ラブア(1945年11月19日〜1999年12月27日とされる)は、戦後日本における西洋占星術の普及に大きな役割を果たした占星術家です。茨城県出身と伝えられ、ウィキペディア等の人物プロフィールによれば、1964年頃から占星術の研究を始め、1969年には占星術家の潮島郁幸に師事したとされています。雑誌・テレビなどマスコミ媒体での執筆・出演を通じ、一般読者層に向けた西洋占星術の橋渡し役を担いました。
本書が世に出た1970〜1990年代の日本は、戦後の混乱を抜けて欧米文化が雑誌・書籍で広く流入し、雑誌の星座コーナーで西洋占星術が一般読者に浸透していった時期にあたります。海外では英国の
アラン・レオ や
セファリアル が築いた近代占星術の体系が一般化し、米国では
リンダ・グッドマン のサンサイン本がベストセラーになっていました。一方の日本では、雑誌の断片的なサンサイン記事や翻訳コラムが中心で、出生図を体系的に読むための日本語書はごく限られていたとされます。
そうした空白を埋めようとしたのが本書です。著者はアラン・レオ以降の英米近代占星術が定式化してきた読み筋を、日本語の用語と図版で平易に説明し直し、後続の入門書が踏襲することになる「天体→星座→ハウス→アスペクト→予測」という構成を、日本語圏で早い段階から提示しました。
内容と意義
本書が扱う主要テーマは、近代西洋占星術の基本要素を網羅することにあります。天体(太陽・月・水星・金星・火星・木星・土星に加え、天王星・海王星・冥王星)、十二星座、十二ハウス、主要アスペクト(コンジャンクション・オポジション・トライン・スクエア・セクスタイル)といった土台を、それぞれの章で順に解説する構成です。さらにネイタルチャートの読み方、プログレス(進行図)やトランジットを使った時期予測、出生時刻不明な場合の扱いといった実践的な章も含まれているとされ、入門と実用の両方を兼ねた厚みがあります。
本書独自の貢献は、特定の流派に偏らず「日本語で読める西洋占星術の標準書」を作ろうとした点にあります。理論面ではトロピカル黄道を基盤に、英米で標準化されつつあった近代占星術の枠組みを丁寧に紹介し、過度に心理学的な解釈や神秘主義的な記述に寄せない中立的な書きぶりが特徴です。豊富な作例(実例ホロスコープ)と表組みを用いて、読者が自分でホロスコープを描き、要素同士の組み合わせから意味を組み立てていけるよう設計されている点でも、参照価値の高い本となっています。出版社が「占星学の決定版」と表現する所以はこのあたりにあります。天体・星座・ハウス・アスペクトの個別解説に加えて、それらを組み合わせて一枚のホロスコープとして読み解く統合的な手順までを一冊で示している構造は、現代の入門書でもなお標準的なフォーマットになっており、その雛形を日本語圏で早い段階に提示した功績は小さくありません。
同時代・後世への影響
本書は、後続世代の日本人占星術家にとって入門期の参照点のひとつとなってきました。1990年代以降に占星術を学び始めた読者の多くが、最初に手に取る日本語の総合書として本書の名を挙げてきたといわれ、長く「日本語の標準書」として広く参照されてきました。版を重ね、絶版になった時期を経て2017年に新装版が刊行されたという事実そのものが、長期にわたる需要を物語っています。
執筆と翻訳・解説を組み合わせるスタイルで一般読者に占星術を橋渡しする手法は、その後の日本における占星術出版の主流を形作りました。現代の代表的な書き手である
鏡リュウジ、
石井ゆかり、
松村潔 の活動はいずれも、雑誌連載・一般書・翻訳を組み合わせるスタイルを取っており、ルル・ラブアと本書が切り拓いた地平の延長線上にあると言ってよいでしょう。
本書には『アスペクト占星術』(学習研究社)など、同著者による姉妹的な解説書も連なっており、本書を起点にアスペクトやハウスを掘り下げる学習動線が日本語で組めるようになっていました。海外原書を読む前段階で日本語の総合書を通読しておきたい読者にとって、本書は長く「最初の一冊」を担い続けた本です。新装版が刊行されたことで、世代を超えた読者が同じ「標準書」を参照点として共有できる状況が再び整い、日本の西洋占星術コミュニティにおける共通言語としての位置づけは現在も健在です。
位置づけと現代における意義
西洋占星術史のなかでの本書の位置づけは、英米で1900年代前半に
アラン・レオ らが近代化した占星術を、日本語で総合的に紹介した最初期の標準書、というところに集約されます。原書(英語圏)の翻訳ではなく、日本人著者が日本の読者に向けて書き下ろした総合書である点が、海外名著の邦訳とは異なる固有の役割を担っています。
近年は海外の心理占星術・進化占星術・ヘレニズム占星術の翻訳が進み、日本でも多様な流派を学べる状況になっています。進化占星術では
スティーヴン・フォレスト、ヘレニズム再評価では
クリス・ブレナン などが参照され、心理学的アプローチでは
モダン心理派の系譜 に連なる書き手が訳されるようになりました。こうした多様化のなかで本書は、特定の流派色を持たない「日本語で書かれた近代西洋占星術の基本書」というポジションを保ち続けています。
現代の読者にとっての意義は、最新理論に進む前に日本語で全体像を一度つかむための座標軸として機能する点にあります。サンサインに偏らずハウスとアスペクトを総合的に扱う読み筋は、
現代占星術の太陽星座普及史 の流れを別角度から補強するものでもあり、雑誌的な星座コーナーから一歩踏み込んで西洋占星術を学ぼうとする読者にとって、有効な土台を提供します。
この本を知る意義・学び方
『占星学』を読むこと、あるいは知っておくことの価値は、日本における近代西洋占星術の「標準的な読み筋」がどのように形成されてきたかを、一次資料に近い形で体感できる点にあります。海外占星術家の翻訳書を読む前に、日本語で書かれた基本書として一度通読しておくと、用語や図版の見方に慣れることができ、その後の学習がスムーズになります。
入手については、新装版(実業之日本社、2017年、ISBN 978-4-408-45636-2)が現役で流通しており、紙の書籍に加え電子書籍版も用意されています。旧版は古書市場で流通しているため、複数版を読み比べたい場合はそちらも参考になります。
読む順序としては、まず本書で天体・星座・ハウス・アスペクトの基本を押さえ、次に同著者の『アスペクト占星術』などでアスペクトを掘り下げ、その後に海外の心理占星術・進化占星術・ヘレニズム占星術の翻訳に進むのがおすすめです。占星術全体の地図を日本語で描いたうえで、自分が深めたい流派に進んでいくとき、本書は長く参照点であり続けてくれる一冊です。
無料のホロスコープ計算機で自分のチャートを見る