どんな本か
『実習・占星学入門 ホロスコープの作り方と読み方』は、日本の西洋占星術研究家である
石川源晃が、初学者に向けてホロスコープの作成と判読の手順を一冊にまとめた入門書です。版元は平河出版社、初版の刊行は1988年で、判型はA5判並製、ISBNは978-4-89203-153-3とされています。版元書誌によれば、本書はNHK文化センターなどでの講義をもとに編まれたもので、太古からの叡智の体系としての占星術の歴史と、ホロスコープを実際に組み立てて読み解いていく手順とを、初心者にも追える形で順に解説する構成になっています。
本書の最大の特徴は、占星術を神秘的な術としてではなく「計算と判断の明示できる手順」として書き下ろした点にあります。出生時刻の補正、ハウス分割、天体位置の算出といったチャート作成の工程を、表と式を伴う工学書に近い文体で記述し、そのうえでサイン・ハウス・アスペクトを用いた判断手順を順序立てて提示します。
著者にとって本書は、後に続く『演習・占星学入門』『応用・占星学入門』『調波・占星学入門』『辞典・占星学入門』からなる「占星学入門」シリーズの第一冊にあたります。日本語で西洋占星術をゼロから学び始める読者が、まず手に取って計算と判断の全体像を把握するための土台となる本として、長く参照され続けてきた一冊です。
著者と成立の背景
著者の
石川源晃(1921年2月11日〜2006年6月13日)は、東京工業大学を卒業した技術者出身の占星術研究家です。戦後米国の企業に勤務した時期に占星術と出会い、
アラン・レオの著作を入り口として研究を始めたとされます。1970年代以降は研究組織「アストロサークル」を主宰し、1978年からは月刊「アストロサークル通信」を長期にわたって発行するなど、英米圏の近代占星術を日本語圏に紹介する仕事を継続しました。
本書が成立した1980年代後半は、日本において西洋占星術が雑誌・書籍・カルチャーセンターを通じて一般読者に届き始めた時期にあたります。海外では
アラン・レオから
マーガレット・ホーンへと続く英国近代占星術の教科書的体系が整備されており、その日本語版に相当する標準的な入門書が国内には不足していました。石川源晃は当時すでに、自身の組織で進めてきた英米文献の翻訳・整理を、出版社の編集と組み合わせて広い読者に届ける段階に入っていました。
本書はNHK文化センターの講座運営のなかで蓄積された講義原稿を、独習可能な書籍としてまとめ直したものとされます。先行する伝統との関係で言えば、本書は古典派や中世占星術の復興という方向ではなく、20世紀英米圏で再整備された近代占星術(サン・ムーン・ライジングを中心にハウスとアスペクトで読む体系)の枠組みを日本語で書き直すことに重心を置いています。
内容と意義
本書で扱われる主要なテーマは、出生図(ネイタルチャート)を一枚作成し、それを読み解くために必要な道具立て全般です。占星術の歴史的な背景に簡潔に触れたうえで、出生地・出生時刻の扱い、グリニッジ標準時への換算、恒星時の算出、ハウス分割の方法、各天体の位置計算、アスペクトの判定、オーブの設定といった工程が、表と式を伴いながら順を追って解説されていきます。
論旨の中心は、ホロスコープを読むという作業を「計算の手順」と「判断の手順」に分けて、それぞれを言葉で明示できる形で示すことにあります。サインの意味、十二ハウスの守備範囲、主要なアスペクト(合・衝・三分・四分・六分など)の角度とオーブ、天体同士の関係の読み方が、近代占星術の標準的な枠組みに沿って解説されます。判断の段階では、まず大局を捉え、次にディテールに降りていくという順序が一貫して示され、読み手は自分のチャートに同じ手順を当てはめながら読み進めることができます。
本書独自の貢献は、当時の日本語占星術書としては珍しく、計算式・参照表・図版を多く配し、占星術の入門書を「眺めて雰囲気を味わう本」ではなく「手を動かして実際にホロスコープを作る本」として設計した点にあります。後年、占星術計算用の携帯コンピューター「アストロタッチ」を開発するに至る著者の姿勢は、本書の段階ですでに「計算過程を可視化し、誰でも再現できる形で残す」という方針として現れています。題名が示すとおり、本書は読書ではなく「実習」を求める本で、読者を観客から実践者へと押し出す入門書として独自の位置を占めています。
同時代・後世への影響
本書は刊行後、平河出版社による石川源晃の「占星学入門」シリーズの第一巻として、続く『演習・占星学入門』『応用・占星学入門』『調波・占星学入門』『辞典・占星学入門』の刊行へとつながっていきました。版元書誌や
石川源晃の著作一覧から確認できるように、このシリーズは入門から応用、用語整理までを一貫して同じ著者の語り口でたどれる珍しい構成となっており、日本語で西洋占星術を体系的に学ぼうとする読者にとっての標準的な学習路の一つとなりました。
同時代の英米圏では
マーガレット・ホーンの
『近代占星術教科書』が依然として教科書的な地位を保ち、ドイツ語圏では
ラインホルト・エバーティンのミッドポイント理論、英国では
ジョン・アディのハーモニクス理論など、技法面での近代化が進んでいました。本書および本書を含むシリーズは、これら英米独の蓄積を日本語で順に紹介する経路として機能し、後続の『調波・占星学入門』では特にハーモニクス技法を日本語圏で初めて体系的に紹介する役割を担いました。
本書の影響は後続の日本語占星術書の書き方にも現れています。
鏡リュウジ・
松村潔・
石井ゆかりらが活躍する現在の日本語占星術書群が成立する前段として、本書のシリーズが入門から応用までの「計算と判断の手順書」として参照されてきました。英米近代占星術を日本語で体系化した先駆者の一人として、本書はその起点の代表作と位置づけられます。
位置づけと現代における意義
西洋占星術の歴史のなかでの本書の位置づけは、20世紀英米近代占星術の標準的な枠組みを、日本語の入門書として書き下した代表的な一冊というところにあります。古代ヘレニズム占星術や中世占星術の復興という近年の流れではなく、サイン・ハウス・アスペクトを中心とする近代占星術の体系を、計算手順と判断手順の両面から書き起こしている点が本書の歴史的な座標を決めています(
近代・心理派の地形図)。
現代の読者にとっての意味は、ホロスコープ計算がスマートフォンアプリやウェブサービスで瞬時に行える時代において、その背後で何が計算され、何が判断されているのかを言葉で押さえ直せる点にあります。チャート作成自体は機械任せで構いませんが、その出力をどう読むかという判断は依然として人間側の作業として残ります。本書はその判断の手順を、初学者でも追える順序で明示している入門書として、現在でも参照する価値を保っています。
他の流派との対比で見ると、本書は
リズ・グリーンらの心理占星術や、
クリス・ブレナンらのヘレニズム復興、
ジェフリー・ウルフ・グリーンらの進化占星術が並立する現代の見取り図(
現代占星術の地形図)のなかで、いずれの流派にもまず必要となる「計算と基本判断の共通基盤」を整える位置にあります。深い解釈論に進む前段の参照書として、本書はいまも実用的に機能します。
この本を知る意義・学び方
本書を知る意義は、日本語で西洋占星術を学ぶための土台がどのように形作られたかを、書き手の側から具体的にたどれる点にあります。海外文献の翻訳を待たず、英米圏の近代占星術の枠組みを日本語で書き起こし、計算と判断の手順を初学者でも追える形にまとめた本がいつ・どこで・どのように生まれたかを知ることは、現在の日本語占星術書群が成立する前提を理解するうえで意味があります。
入手については、版元の平河出版社が現在も書誌情報を公開しており、定価1,980円(税込)・A5判並製として扱われています。新刊書店での流通は地域差がありますが、オンライン書店や古書市場、図書館を通じて比較的入手しやすい部類に入ります。読む順序としては、まず本書『実習・占星学入門』で基本のチャート作成と判断手順を一巡し、そのうえで実例演習が増える『演習・占星学入門』、応用に踏み込む『応用・占星学入門』、ハーモニクスを学ぶ『調波・占星学入門』、用語の確認に便利な『辞典・占星学入門』へと進む形がシリーズの設計どおりの流れです。
併読としては、英国近代占星術の標準的な体系を確認するために
マーガレット・ホーンの
『近代占星術教科書』を、現代の日本語入門書と読み比べたい場合は
鏡リュウジの関連著作を並行して手元に置く読み方が向いています。まずは自分のチャートを用意して、本書の手順に当てはめて読み解いてみてください。
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