バルカンは、かつて水星の内側、太陽にもっとも近い軌道にあると仮定された、仮説上の天体です。19世紀、水星の動きにわずかな説明できないずれが見つかり、その原因として「まだ見ぬ内惑星があるのではないか」と考えられたことから提案されました。しかし長い捜索にもかかわらず実在は確かめられず、現在では天文学的に存在が否定されています。
バルカンを提案したのは、海王星の存在を計算で予言したことでも知られるフランスの天文学者ルヴェリエでした。彼は1859年、水星の近日点が少しずつずれていく現象を、未知の内惑星の重力で説明しようとしました。多くの天文学者がこの「バルカン」を探しましたが、結局見つかりませんでした。20世紀に入り、アインシュタインの一般相対性理論が、新たな惑星を持ち出さずに水星のずれを見事に説明し、バルカン説は役目を終えました。
占星術のチャートに出てくる点は、大きく三つに分けて見分けると整理しやすくなります。望遠鏡で観測された実在の天体、実在はしないが計算で位置が決まる点、そしてバルカンのように、存在が想定されただけの仮説天体です。月の遠地点を指す
リリスは二つ目、冥王星の外側を想定した
トランスプルートは三つ目にあたります。実在のものと仮説のものを同じ重さで混ぜて読まないことが、誤読を防ぐ第一歩です。
バルカンが生まれた背景は、水星の動きにあります。水星は太陽系の惑星のなかで最も内側を回り、公転周期が約88日と最も速く動く天体です。その水星の動きに、当時の理論では説明できないずれが見つかり、さらに内側に惑星があるのではないかという発想が出てきました。実在の水星の読み方は
水星の項目にあります。
同じ名前で混乱しやすい点もあります。ハンブルク学派が海王星の外側に想定した仮想天体のなかにも、ウルカヌスの名を持つ点があります(八つの仮想天体の経緯は
「惑星図の規則」のページにあります)。水星の内側にあるはずだったバルカンとは、想定された位置がまったく別の仮説です。外惑星と仮想天体の区別は、
外惑星の扱いの流派差のコラムが整理しています。
それでも一部の占星術家は、ローマ神話の鍛冶の神ウルカヌス(バルカン)の名にちなみ、集中・鍛錬・地道に磨き上げる力のテーマとして、バルカンを象徴的に用いることがあります。ただし前提となる天体が実在しないため、占星術ソフトでも標準では扱われないことが多く、その位置づけには議論があります。本事典では、占星術史の一場面を伝える知識として紹介するにとどめます。
バルカンの場合、きっかけはあくまで天文学上の謎であり、占星術の象徴は後から重ねられたものです。使う場合も、集中や鍛錬といったテーマを借りるだけにとどめ、位置から出来事を読むことはしない、という距離の取り方になります。チャートでバルカンが見当たらなくても、それは不具合ではありません。実在の天体として位置が確定しているわけではないからです。実際の読みは、確認された天体と主要な感受点を軸に進めるのが基本です。